白衣の下に潜む静かな溺愛 ―命を救う手と音を奏でる指先のあいだで―

そう叩きつけられているようで、俺の手が震えるんだ。

「篠田先生は、後遺症の確率が10％ってどう思いますか？」

「気にする事はないでしょうね。９割後遺症が残らないのなら、オペはするべきだ。」

「でも、美玖はそれをオペの失敗だという。」

篠田先生は、階段の途中で足を止めた。

「ピアニストが音を外す確率は、わずか5％だそうですよ。」

「厳しい世界ですね。」

篠田先生は、何かを考えるように階段を昇り、俺の先を行く。

やがて３階に辿り着き、非常口階段のドアを開いた。

「それにしても、驚きました。」

「何がですか？」

「渡部先生。天音さんの事、美玖って名前で呼ぶんですね。」

看護師達がおはようございますと、挨拶してくる。

「おかしいですか。」

「いや、先生はどこか患者と線を引いてるところがあったので、逆に新鮮ですよ。」