白衣の下に潜む静かな溺愛 ―命を救う手と音を奏でる指先のあいだで―
「まだなのか?」

「はい。」

「何をてこずってる?若い女は口説けないか。」

「いえ。」

黒川先生は、コミュニケーション能力が高い。

少年少女から年配のお年寄りまでも、幅広く話ができる。

「発作を繰り返してるんだろう。これ以上、彼女を苦しめる理由があるか?」

「……彼女、後遺症を恐れているんです。無理強いできません。」

黒川先生がおもむろにダヴィンチのパンフレットを差し出した。

「何の為のダヴィンチだ。何の為に君は、シミュレーションを続けている?」

「……彼女を救う為です。」

「だったら、今こそ救うんだ。君のシミュレーションは完璧だ。」

俺はダヴィンチのパンフレットと、手術同意書を持ってナースステーションを出た。

患者、看護師、お見舞いに来ている人。

たくさんこの病棟にはいる。

でも今俺の心の中にいるのは、美玖しかいない。
< 97 / 298 >

この作品をシェア

pagetop