君を守る契約

宗介サイド

成田に降り立ってから、胸の奥がずっとざわついていた。時差のせいじゃない。疲労でもない。今までどれだけ飛行機に乗ってきたかわからないが、なぜか今回だけは早く帰りたいと思ってしまった。

「松永機長、奥さん大丈夫なんですか?」

職場の同僚からの何気ない一言が、胸に突き刺さる。

「……何の話だ?」

「体調崩して、休職するって。この前医務室にも行っていたんですよね?」

その瞬間、音が消えた。周囲の雑踏も、アナウンスも、全部が遠のく。

休職なんて聞いていない。

駐車場へ向かいながら、スマートフォンを取り出す。震える指で、名前をタップした。

【帰った。今どこにいる?】

数秒。
十秒。
既読は、つかない。

【体調のこと、聞いた】
【どうして言ってくれなかった】

立て続けにメッセージを送ると既読がついた。そのことにホッとする反面、すぐに心臓が跳ねた。

【ごめんなさい】
【でも、もう大丈夫です】

短い。あまりにも、彼女らしい。

【どこにいる】
【話をしよう】

少し、間が空いた。
その間に、嫌な予感が胸を満たしていく。
そして、届いた次のメッセージ。

【宗介さん、契約を終わりにしたいです】

一瞬、意味が理解できなかった。

【どういうことだ】
【突然すぎる】

すぐに返した。ほとんど、反射だった。
しばらくして、また既読がつく。

【迷惑をかけられないから】
【これ以上、一緒にいる理由がありません】

——迷惑?

喉の奥が、ひりつく。

【そんなふうに思わせた覚えはない】
【俺は——】

送信する前に、次のメッセージが割り込んできた。

【感謝しています】
【宗介さんは、優しかった】
【これ以上、優しくされる資格がない】

指が止まった。

——資格?

【話をさせてくれ】
【せめて顔を見て】

既読。

でも、返事はなかった。

そのまま、画面は沈黙した。俺は慌てて通話ボタンを押すが繋がることはなかった。
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