君を守る契約

思い合い

里美の部屋のリビングで、琴音はソファに座っていた。
ゴールデンウィークで東京に帰ってきた幸也が向かいにいた。大きくなってきた私のお腹に目を見開き驚いていた。

「……全部、話すね」

静かな声で、琴音は口を開いた。
契約結婚のこと。宗介との関係。妊娠のこと。そして、ひとりで産むと決めたこと。
話し終えたあと、しばらく沈黙が続く。そして幸也は俯いたまま、拳を握りしめている。

「……ごめん」

ぽつりと、低い声が聞こえた。

「俺のせいだ。姉ちゃんがこんなに無理して……」

「違うよ」

琴音は首を振った。

「幸也のせいじゃない。私が決めたことだから」

「でも……」

「それにね」

琴音は、お腹にそっと手を当てる。

「お金のことも、ちゃんと考えてる。貯金もあるし、どうしても足りなかったら……」

一瞬、言葉を選ぶように間を置いてから続けた。

「実家、売ってもいいと思ってる」

幸也が顔を上げた。

「あの家は思い出が多すぎるけど、守るものの順番は変わったから。生きている人が1番大切。それは私にとって幸也だし、この子なの」

私がお腹の子に聞こえるようにそう話すと、幸也はしばらく黙り込みそれから小さく頷いた。

「……わかった」

そして、まっすぐ琴音を見る。

「俺も、できることは全部する。姉ちゃんをひとりにはしない。医者になって必ず恩返しするから」

琴音は、少しだけ微笑んだ。

「ありがとう。でもね、幸也。全部を背負おうとしなくていい。あなたは、自分の人生をちゃんと生きて」

「それでも、家族だろ」

その一言に、胸がきゅっとなる。

「……うん」

私にとっても家族は大切。両親を失い幸也だけが私の生きがいだった。幸也もそう思ってくれているのだと胸の奥が温かくなった。
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