君を守る契約

里美の部屋での生活にも、少しずつ慣れてきた。子供が産まれることもあり、自立しなければと何度か里美にマンションを出て1人暮らしをすると言い出したが、里美は頑として受け入れなかった。

「あのね、出産するって大変なことなの。それに琴音は人を頼らなさすぎる。私は嫌だったらとっくに出ていってと言ってるよ。だからこのままここで安心して産んでいいんだよ」

彼女のその優しい言葉に私は言葉が詰まり出てこなかった。

「ま、偉そうなこと言ったけど私も産んだことないんだけどね」

と彼女らしいオチをつけて私を和ませてくれる。私はまた涙がこぼれ落ちた。最近本当に涙腺が緩い。

「ごめんね。でも……ありがとう」

里美はニコッと笑い、私の作った朝食を食べていた。
ここにいる間の家事は任せて、と私はやらせてもらっている。「こんないたせりつくせりなら私が嫁に欲しいわ」とあっけらかんと言い放す彼女には本当に救われている。
カレンダーには、検診の日と出産予定日が赤いペンで丸をつけられ、次の予定は来週だ。
机の上には、母子手帳といくつかのパンフレット。「出産準備チェックリスト」と書かれた紙に、ひとつずつ丸をつけていく。

・肌着
・ガーゼ
・おくるみ
・ベビーベッド（レンタル）

「こんなに、いるんだ」

思わず小さく呟く。相談したくても両親はもういない。親戚も幸也を施設に預ける話が出てからは疎遠になってしまった。だから助産師さんに聞くか、ネットでの情報だけしかない。だからこそ自分の知らないことがあるのではないかと何度も不安に陥る。赤ちゃん用品を扱う通販サイトを開き、画面を眺めながら指が止まる。どれも小さくて、可愛らしくて、それを見ていると不思議と怖さよりも、胸の奥がじんわり温かくなった。
お腹に手を当てると、以前より確かに重みがある。ときどき、内側からくすぐるような感覚がして、そのたびに胸が熱くなる。

「……大丈夫だよ」

そう伝えると私はそっとお腹に手を当てた。