君を守る契約
検診の日。
エコー画面に映る赤ちゃんは、前よりもはっきり形がわかるようになっていた。画面では手足を動かす様子がわかり、食い入るように見ていると医師が説明をしながら、穏やかに微笑んでいた。

「順調ですよ。今のところ問題ありません」

その言葉に、ほっと肩の力が抜けた。

診察室を出たあと、待合室のベンチに腰を下ろし、エコー写真を見つめる。白黒の、少しぼやけた画像。

(……宗介さん、見たらどんな顔するんだろう)

一瞬、そんな考えが浮かんで胃の奥がズンと重くなった。この子は私が育てると自分で決めたんだから、と首を振りほんの少し苦笑してしまう。
毎晩ベッドに横になると、無意識に隣の空間を探してしまう自分。
手を伸ばせば、そこにあるはずだった安心。

「……もう、ないんだよ」

小さく言い聞かせる。それでも、眠る前にお腹に両手を添えると、不思議と心が落ち着いた。彼から離れることも迷惑をかけないことも自分で決めたことだ。ふぅ、と息を吐き出すと大きく新鮮な空気を吸い込んだ。


「あなたがいれば、大丈夫」

そう思える自分に、少し驚く。母になる準備は、ベビー用品を揃えることだけじゃない。こうして、ひとつずつ、何かを手放しながら強くなっていくことなのかもしれない。
窓の外では、遠くの街の灯りが瞬いていた。
その同じ空の下で、彼がまだ私を探していることを、私は知らない。
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