君を守る契約
数日後、俺は彼の大学がある仙台空港に降り立った。
指定された場所にいくとすでに幸也くんは待っていた。近くのカフェに案内され、向かい合わせに座ると彼はしばらく視線を落としたままコーヒーカップを見つめていた。

「宗介さんは姉ちゃんのこと、契約じゃなかったんですか?」

ポツリとつぶやかれた言葉に俺は指を横にふる。

「違う。俺は最初から彼女のことが気になっていたし、好きになっていた。だから彼女が困っているのを聞いてすぐに助けたいと思ったんだ。でもそれが間違っていた。契約だなんて言わずに初めから本当の気持ちを言うべきだった」

「姉ちゃんは宗介さんに迷惑をこれ以上かけられないと言ってます」

「迷惑なんてひとつもない。幸也くんのことだって俺は家族になるんだから喜んで援助していた。だから何も迷惑なんて思うことはないんだ」

幸也くんの質問に前のめりになって俺は話した。少なくとも今幸也くんにだけでも誤解されたくない。

「俺は彼女との生活が毎日嘘なく本当に幸せだった。だからどうして急に琴音がいなくなってしまったのかわからないんだ。これ以上迷惑をかけられないとはどういう意味なんだ」

幸也くんは顔を上げると俺の目を見た。そして俺の表情を伺うようにしばらく考えていたが、ようやく口が開いた。

「……姉ちゃん、妊娠してます」

理解するまでに、数秒かかった。

「……なんだって?」

「宗介さんにも誰にも言わずに産むって、決めてます」

——迷惑をかけられない。
——優しくされる資格がない。

全部、繋がった。

「……俺は、何も知らなかった」

呟くと、幸也くんは首を振った。

「姉ちゃんは、宗介さんを悪く言ったことは一度もないです。むしろ……感謝してました」

胸が、締めつけられる。

「でも、言えなかった。松永さんの人生を壊したくないって……」

俺の人生を壊したくない?そんなことあるわけないじゃないか。俺は胸が苦しいほどに締め付けられ、彼女のことを思うともどかしいほどに愛おしさが込み上げてくる。
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