君を守る契約
そのときだった。
幸也くんのスマートフォンが震え、彼の顔色が一瞬で変わる。

「姉ちゃんが今お世話になっている里美さんからで、姉ちゃんが……産気づいたって」

立ち上がるのに、理由はいらなかった。

「病院は?」

「東京です」

俺は頷き、迷わず言った。

「行こう」

俺は伝票を手に彼を急かす。幸也くんは、一瞬だけ迷い、それから強く頷いた。

——今度こそ、間に合え。

タクシーを拾うと空港に舞い戻った。空席の便がちょうどあり、俺はすぐに座席を押さえた。空港内を走り滑り込むように搭乗した。
見知ったCAを見かけたが声をかける余裕もない。
お願いだ、今度こそ間に合ってくれ。
俺は初めて心の底から祈っていた。
シートベルトをかけると手をグッと握りしめた。
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