君を守る契約

あなたを待ってた

どれくらい時間が経ったのか、もうわからなかった。
時計を見る余裕もなくて、ただ波のように押し寄せてくる痛みに耐えることで精一杯だった。

——大丈夫。
——ひとりで、できる。

そう言い聞かせていたはずなのに、次の痛みが来るたび、心が少しずつ削られていく。

「……っ……」

声が漏れそうになるのを必死に抑える。弱音を吐いたら、今まで積み上げてきた覚悟が崩れてしまいそうになる。
助産師さんの声に励まされ私は息を整えるが、波が来るたびに乱れ、涙が自然と頬を伝う。

そのときだった。

扉の向こうが、ざわりとした気がした。
誰かの足音。
聞き慣れたような、でも、いるはずのない気配。

——気のせい。

そう思おうとした瞬間、視界の端に人影が映った。

「……え……?」

滲む視界の中で、焦点が合わない。夢だと思った。痛みが強すぎて、幻を見ているんだと。

「……琴音」

その声を聞いた瞬間、胸の奥が、ぐっと掴まれた。

「……宗介、さん……?」

喉が震えて、声が掠れる。
なんで。
どうして。

「……間に合った」

そう言って、彼は私のそばに来た。迷いのない動きで、私の手を包み込む。
あたたかい。はっきりとした温度。

——夢じゃ、ない。

「……なんで……」

言葉にした途端、張り詰めていたものが一気に崩れた。自分でも驚くほど、声が弱かった。

「ひとりで、よく頑張ったな」

その言葉が、胸に落ちた瞬間、涙が溢れた。
ひとりで耐えてきた時間。誰にも言えなかった不安。彼のことを守りたくて、ひたすら会いたいのを我慢してきた。
< 113 / 121 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop