君を守る契約
病室の明かりは落とされ、窓の外には街の灯りが滲んでいた。
今日は本当に長くて短い一日だった。でも胸の上にいるこの子を見ていると改めて現実なのだと実感させてくれる。
規則正しい息遣い、でも頼りなくて、柔らかくて、愛おしい。ただひたすら、何に変えても守ってあげたいと思える存在がこの世にできるなんて本当に不思議。

「……かわいいな」

小さく宗介さんが呟いた。
さっきまで里美と幸也がこの部屋にいてみんなで興奮の渦に飲まれていた。
里美は産気付いてからずっと私のそばにいて励まし続けてくれていた。産声が廊下まで聞こえ、涙が止まらなかったと話していて、それを聞いた私もまた涙が込み上げてきてしまった。
幸也も赤ちゃんを抱き締めた時、目を真っ赤にして声を震わせ、何度も良かったと言っていた。
ふたりは宗介さんを見て遠慮してくれたのか私たち家族だけの時間を作ってくれるため早々に帰宅してしまった。

「琴音に似てるな」

赤ちゃんの頬をそっとなぞるように触れると優しい声が聞こえてきた。
宗介さんはベッドの横にある椅子を引き寄せ、私のすぐそばに腰を下ろす。

「琴音」

その呼び方が、久しぶりで胸がきゅっとなった。

「謝らせてほしい」

私は何も言えず、ただ彼を見る。

「体調が悪いって言われた時も、離婚届を見た時も……俺は、自分が捨てられたって思った」

静かな声だった。

「でも違った。琴音は、ひとりで全部背負おうとしてた」

彼の手が、そっと私の手に触れる。

「俺が守るって言いながら、“迷惑をかけたくない“なんて言わせるほど、追い詰めてたのは俺だ」

「……違います」

思わず、声が出た。

「宗介さんは、何も悪くない。私が……怖かったんです」

喉の奥が熱くなる。
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