君を守る契約
「幸せになればなるほど、失うのが怖くて。契約って言葉にしがみついてないと、宗介さんの人生を壊してしまう気がして……」

彼は、深く息を吸った。

「俺の人生は、琴音がいないほうが壊れる」

はっきりした声だった。

「契約でも、義務でもない。俺は、自分の意思で琴音を選んだ。最初から俺は琴音のことが気になっていたのに正直に言えず、契約婚だなんて口にしてしまった。最初から間違ってしまった」

彼の言葉に喉が締め付けられる。

「最初から?」

震える声で尋ねると彼は大きく頷く。

「あぁ、最初から。俺は琴音がグランドスタッフとして働いているところを知らず知らず目で追っていた。いつも明るく真面目で、誰に対しても親切で、丁寧で。ゲートを通るたび琴音がいないかなと探していたよ」

まさか、そんな。
彼の言葉に私はたじろぐ。

「だから琴音が困っているのを見てチャンスだと思った。なぜその時に正直に告白して君を支える方法をとらなかったのか、何度も後悔したよ。それでも琴音と暮らし始めて幸せで、本当の結婚のように勝手に勘違いしていた。この幸せが永遠だと思いたかったのかもしれない」

「私も本当の結婚かと勘違いするほど幸せでした」

その言葉に彼は少し目を大きくすると微笑みを浮かべる。

「ああ、本当に幸せだと思った。仮初なのに。これを本物にするための努力を俺はしなければならなかったのに、このまま続くと思いたかった。体の関係を持ったのも琴音が好きだからなのに言葉にしていなかった。本当に後になって逃げていたことにやっと気づいたんだ」

「宗介さん……」

「俺は琴音を愛してる」

不意に赤ちゃんが小さく身じろぎをした。宗介さんの視線が、自然とその小さな顔に向かう。

「俺は琴音とこの子を守りたい」

赤ちゃんの指が、反射的に彼の指を掴んだ。
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