君を守る契約
「私は……契約で結婚してしまったくせにあなたのことを好きになってしまいました。それは宗介さんを裏切る行為だと思いました。でもこの子がお腹にいるとわかった時、どうしても産みたくなった。宗介さんの子をこうして抱きたくなったんです。いけないことだと思いました。契約違反だと……。それでも産みたくて、宗介さんに迷惑をかけないようにしようと思ってあなたの前から消えた」

「今ならわかる。琴音がこの決断をした意味を。それでも俺は琴音がいなくなった喪失感でおかしくなりそうだった。もう勝手にいなくならないでくれ。本当に琴音のことが好きなんだ」

彼の手が私の頬に触れる。そして見つめ合うと自然に近づいた。
久しぶりの彼の温もりに心が震えた。

「琴音、愛してる」

耳元で小さく囁かれた。

「私も……、私も宗介さんを愛してる」

やっと振り絞るようにだした掠れる声に彼は表情をクシャリと緩めていた。
そして、赤ちゃんに向かって、初めてはっきり言った。

「遅くなってごめんな。でも、ここに来られてよかった。君のこともこれから精一杯の愛情で守り抜くよ」

そう言うと頬に唇を落としていた。私はその横顔を見て、胸がいっぱいになった。

「もう、ひとりで決めなくていい。これからは、全部一緒に考えよう」

胸の奥で、何かがほどけていく。

「……名前、まだ決めてなくて」

そう言うと、彼は少し驚いて、それから優しく笑った。

「じゃあ、それも一緒に悩もうか」

赤ちゃんの寝息と、宗介さんの体温。
すれ違って、遠回りして、それでもちゃんと辿り着いた場所にこれまでに感じたことのない安心感を覚えた。
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