君を守る契約

近づく距離

午後の便が折り返しを迎える頃、ゲート前は出発準備でいつも以上に慌ただしかった。乗客のひとりが手荷物のサイズで揉めていて、私はできるだけ穏やかに対応していた。

「お客さま、規定サイズを少し超えてしまっているようです。こちらお預けの対応に……」

「そんなの聞いてない! 今すぐ乗せろ!」

声を荒げる男性に周囲の視線が集まる。その大きな声に圧倒され萎縮してしまうが、決まりは決まりだ。安全運行のためにも守っていただかなければならない。私は胃のあたりがギュッと掴まれるようになり緊張するが、微笑みを崩さずに頭を下げた。

「申し訳ございませんが……」

そう口にしたと同時に後ろから落ち着いた声が聞こえてきた。

「お客さま、お荷物はこちらでお預かりします。機内には責任を持ってお運びしますので」

その言葉に振り向くと松永さんが他の乗務員と一緒に立っていた。
低く、はっきりとしたその声にその男性客は気圧されたのか、渋々荷物を預けた。
ブースに戻ると松永さんに向かってお礼を伝える。

「助かりました……ありがとうございます」

「いいえ。大丈夫ですか?」

「はい。少し驚いただけで、たまにあるんです」

苦笑いを浮かべると、

「たまに? だからあんなふうに落ちついて対応しているんですね」

そう言われなんだか恥ずかしくなった。内心では胃が締め付けられていたし、心臓だってバクバクしていた。だから彼が言うように落ち着いてなんかいなかった。松永さんはそれだけ言うと機内に入っていってしまった。その背中を目で追いながら胸の奥が少しだけ高鳴っているのを感じた。
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