君を守る契約
「名前なんだけど……、(つむぎ )はどうかな?」

「つむぎ?」

「あぁ。俺たちの縁を繋いでくれた、それに人と人との巡り合わせを大切にする、想いを繋いでくれるような存在。それで紡」

紡。
彼に名前の由来を聞いてグッと胸の奥に入ってきた。

「うん、いい。すごくいい」

私の言葉に彼はホッとしたようだ。そしてテーブルの上に出生届が置かれた。

「……書こうか」

宗介さんの声に、私は頷いた。名前を書く欄を前にして、彼は息を整える。

「緊張するな」

「うん……」

この名前で、この子は生きていく。そう思うと、胸がいっぱいになって、視界が滲みそうになる。
書き終えた瞬間、宗介さんは何も言わず、静かにその書類を見つめていた。
それから、少し間を置いて、彼が立ち上がる。

「琴音」

呼ばれて顔を上げると、彼の手には小さな箱があった。

「これを、渡したい」

箱を開けると、中には指輪がひとつ。一緒に買いに行ったあの時のものとは違う。

「……あの時渡した指輪も、本心では本物のマリッジリングのつもりだった」

彼は、まっすぐ私を見る。

「でも、“契約”って言葉に隠れてしまった。だから今度は、何の枠もない状態で、改めて渡したい」

一度、言葉を切って、静かに続ける。

「契約はおしまいだ。俺が一緒に生きたい人として、受け取ってほしい」

胸の奥が、ぎゅっと締めつけられる。

私は指輪を見る前に、腕の中の紡を見た。それからもう一度、宗介さんを見る。

「……はい」

それだけで、十分だった。

彼は指輪を、そっと私の指にはめる。その動作が、あまりにも大切そうで、涙がこぼれそうになる。

「これからは、三人だ」

そう言って、彼は紡を抱き上げた。

「一緒に、生きていこう」

遠回りをして、たくさん傷ついて、それでも辿り着いた場所。

ここから先は、もう“契約”じゃない。
名前を書き、指輪をはめ、同じ家に帰る。
ちゃんと本当の家族になった瞬間だった。

END
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