君を守る契約
コーヒーを運んできた彼はふと私のに左手に目を止めていた。
それは今朝、昨日言われたことを思い出し意を決してはめてきた指輪だ。

「はめてくれたんだね」

彼は静かに手を伸ばすと私の手を掬い上げた。さっき料理の時に一瞬外したが、またはめたそれはまだどこにも傷なんてなく、眩しいばかりに光輝いていた。

「似合ってる」

穏やかな声に心臓が跳ねる。そして彼に手を取られたまま、身動きできず固まっていると不意に指輪に口をつけた。

「これからもずっと……、できれば毎日つけていて欲しい」

その声はなぜだか少し切なく聞こえた気がした。私は何度も首を縦に振るとようやく彼はいつもの表情に戻り、にこりと笑顔を見せると私の手を解放してくれた。彼の指先が離れたあとも、そこだけ熱が残っていた。

「そういえば結婚指輪も仕上がったと昨日の夜連絡があったんだ。よかったらこのあと取りに行かないか?」

そういえばもうひとつ指輪があるんだったとここでようやく思い出した。ただでさえこんなすごい指輪がはまっているのにあの指輪までつけたらどうなるのだろう。ものすごく目立つに違いないと思った。
彼の車に乗り先日訪れたジュエリーショップに行くと、対応してくれたスタッフが出てきた。

「松永様、お越しいただきありがとうございます」

そういうと先日と同じようにソファに案内される。ほどなくして濃紺のベルベットに置かれたふたつの指輪が私たちの前に並べられた。彼は小さな方を手に取ると内側の刻印を確認する。そして私の左手を取ると薬指にはめてくれた。

「サイズもちょうど良さそうです。それにやっぱりこれにしてよかった。ふたつ重なると素敵ですね」

「そうですね。奥様の指に本当にお似合いです」

「琴音も俺にはめてくれる?」

思わず目を見開き、彼の顔を見上げると満面の笑みを浮かべていた。
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