君を守る契約
私はそっと指輪を取ると彼の差し出した左手に手を添え、薬指に通した。彼はまっすぐな瞳でそれを見つめている。息が止まるほどの緊張に包まれたが、無事薬指に収まるとふぅと息を吐き出した。

「うん、いいね。結婚したって感じがより一層するな」

確かに指輪をするだけで結婚したって感じが強くなる。でも彼のその言葉がほんの少しだけ気になった。見せつけるために指輪をしたかった?確かにそのための契約結婚だ。彼は強引な結婚から逃れるための手段として私の3年を買った。そのために当たり前のことなはずだが、彼の仕草や言葉に勘違いしていたのだと背筋がスッと冷えるような感じがした。
私たちは出来上がったばかりの指輪をつけるとお店を出た。
さっきまではもっと気分が高揚していたのに、現実を突きつけられたかのような気持ちになった。勝手に自分で勘違いしていただけなのになぜか胸の奥がざわめき、落ち着かない。

「琴音?」

私の言葉数が減ったので気になったのだろう。彼は私の顔を覗き込むように窺ってきたので私は笑顔を繕う。

「なんだか甘いものが食べたくなったので、買って帰りますね。それじゃ」

そう告げると私はさっと信号が点滅し始めたのを見て走り出した。彼の声が聞こえた気もしたが、私は一度ひとりになりたかった。この関係を後悔しているわけでない。彼の優しさに触れるたび、私は少しずつ怖くなる。この関係を壊したくない。でも優しくしてくれた彼のことを勘違いしてしまいそうになった自分が恥ずかしくなった。
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