君を守る契約
「……あの、これ。少しだけですけど」

私は鞄から、包み紙で包んだ細長い箱を取り出した。

「プレゼント?」

宗介さんが目を丸くする。

「はい。お仕事でいつも使ってるペン、同じ型のものを見つけて。気に入っているのかなと思って名前も入れてもらいました」

宗介さんは驚いたように一瞬黙り込み、ゆっくりと包装を解いた。そして、手のひらにのせた銀のペンを見つめる。

「本当に、俺が使ってるやつと同じだ」

「チェックリストの時にいつも同じペンを使ってるなって。だから、もし替えが必要になった時に、と思って」

宗介さんは指で名前の刻印をなぞり、小さく息を吐いた。

「琴音、ありがとう」

その声が低くて、優しくて、胸の奥がくすぐったくなる。

「……実は俺も、少しだけ用意してたんだ」

そう言って、彼は部屋に戻ると紙袋を持ってきて私に手渡してくれた。包装を開けると淡いミルクティー色のストールが出てきた。
光にかざすと柔らかいウールがふんわり揺れる。

「この前、出勤のとき寒そうにしてたから。巻いてくれたら、俺が少し安心できる」

その一言で、涙が出そうになった。誰かが私の寒さを気にかけてくれるなんて、どれくらいぶりだろう。

「ありがとうございます。すごく、あったかいです」

首に巻くと、ふわりと温もりが広がった。
宗介さんは小さく笑って、「似合う」とだけ言った。それだけで、心がほどけていく。

その時、ふと思い出したように宗介さんが立ち上がった。

「そうだ、もうひとつ――」

玄関へ歩き、紙袋を手に戻ってくる。

「駅前のケーキ屋に寄ったら、もうこれしかなかったんだけど……」

差し出された箱の中には、小さな苺のショートケーキとチョコレートのケーキ。

「ありがとうございます。本当に、そこまで気を遣わなくてもよかったのに」

「いや、俺が食べたかったんだ。琴音と一緒に」

宗介さんはショートケーキを、私はチョコレートケーキをお皿に乗せ、コーヒーと一緒にいただく。

「……やっぱり甘いものって、幸せですね」

「うん。君が作ったご飯も、すごく甘かったよ」

思わず顔を上げると、宗介さんは柔らかく笑っていた。
その笑顔が、ケーキよりもずっと甘く感じた。

湯気と灯りに包まれた夜。小さな食卓の上で、言葉にしなくても“贈り合う気持ち”が確かにあった。

「……メリークリスマス、宗介さん」

「メリークリスマス、琴音」

その夜、外は雪が降り始めていた。二人の時間は短いけれど、心の奥には、静かな光が灯っていた。

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