君を守る契約
マンションのエントランスを抜けると、幸也は見上げるようにロビーの天井を見回し、「すげぇ……」と素直な声を漏らす。
私は思わず笑ってしまった。
私が始めてここに来た時もそう思ったなぁと少し前の出来事のはずなのになんだか懐かしく思う。

「そんなに驚かないでよ」

「いや、だって姉ちゃん。ここすごく広そうだし……高そうだし……綺麗だし、俺こんなところ見たことないよ」

「私もそう思ったよ。でも彼が頑張ってるからここに住めるの」

そう言って笑うと、幸也はまだ半信半疑のまま頷いていた。
玄関を開けると、空気が柔らかく包み込むように温かい。
「どうぞ」と言って靴を脱がせると、リビングの照明が幸也の瞳に反射して輝いて見えた。

「わぁ……! 姉ちゃん、ちゃんと幸せに暮らしてるんだな」

「まだ暮らし始めたばかりだけどね」

リビングのテーブルの上には、私が夕方から準備しておいた鍋が鎮座していた。
大晦日は年に一度の贅沢、我が家の恒例の“すき焼き”。
薄切りの牛肉、白菜、焼き豆腐、春菊、しらたき……。
冷蔵庫を開けると卵にビールも入っている。

「姉ちゃん、今日これ食べるの?」

「うん。宗介さんも遅くなるけど帰ってくる予定だから、三人で食べよう」

幸也の目がまんまるになった。

「まさか、機長さんと一緒にすき焼き?!」

「そんな言い方しないの。普通に“宗介さん”でいいのよ。ねぇ、まだ帰ってくるまでに時間あるし、何か食べない?」

わたしは幸也が好きなおやつを取り出すと温かいお茶を淹れた。毎年私たちの年越しはこうしてのんびりダラダラと食事をしながらテレビを見るのが恒例だ。お菓子だったりちょっとしたツマミのようなものを置くとしばらくは立ち上がらずに済むようテーブルに並べていた。宗介さんのマンションにこたつはないから少し違うが、わたしたちはリビングのソファに座ると目の前に置いたお菓子をつまみながら紅白歌合戦を見ていた。
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