君を守る契約
「美味しい……」

宗介さんの声が落ち着いたトーンで響いた。
ふたりの間に漂う静けさは、気まずさではなく、ただ“幸せの余韻”のように感じられた。

「幸也くん、もっとお肉を食べるといい。まだ成長期なんだから」

「ありがとうございます!」

我が家ではなかなか口にすることのなかった牛肉。しかも先日何気ない会話から大晦日にはいつもすき焼きをしていたと話をしたら、せっかくだからといいお肉を取り寄せてくれた。

「めちゃくちゃ美味しいです。幸せだなぁ」

しみじみとそういい中がらお肉がどんどんと幸也の胃袋に収まっていってしまう。

「宗介さんも早く! 幸也に食べられちゃう」

私が慌てたように言うと、宗介さんは笑っていた。

「大丈夫。食べてるよ。琴音も食べてる?」

そういうと私の皿にお肉と野菜を入れてくれる。

「ありがとうございます」

私も食べているが、ついつい人に勧めてばかりで自分はおざなりになってしまう。今までも幸也にたくさん食べて欲しくて自分は二の次だった。宗介さんが気がつき取り分けてくれたすき焼きを口にするとお肉が溶けるようで本当に美味しかった。まるで本当の家族になったようにひとつの鍋を囲み食べる幸せな時間。懐かしくもあり、それでいて新しい家族の形が例えようのない、かけがえのない時間のようで胸の奥にグッと込み上げてくるものがあった。この時間は永遠ではないとわかっているのに、なぜか永遠で続けばいいのにと思ってしまった。

「姉ちゃん、宗介さんもお酒飲めるんですか?」

「うん、少しだけ」

「じゃあ、年越しの乾杯しようよ」

幸也の提案に、宗介さんが笑う。腕時計を見ると年越しまであと5分になっていた。

「いいな、それ。琴音、ジュースでもいいか?」

三人のグラスが小さく鳴った。
時計の針が十二時を指すと、外では遠くで除夜の鐘の音がかすかに響いている。

「明けましておめでとうございます」

「おめでとう」
「おめでとう!」

3人で笑いあったその瞬間、家族になったような気がした。
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