君を守る契約
***
隣から聞こえていた小さな寝息が、やがて穏やかに変わっていった。
そっと目を向けると、琴音は毛布の端を胸のあたりまで引き上げ、
まるで寒さを閉じ込めるように眠っていた。
最初は緊張していたのだろう。肩が強張っていたのに、いまはその表情がすっかりやわらいでいる。
彼女の頬を照らす間接照明の光が、やけに柔らかく見えた。
この数ヶ月で、彼女がどれだけのことを抱えて生きてきたのか、そばで見ていて痛いほどわかる。
頑張りすぎて、誰にも頼らず、それでも笑ってみせる——そんな人だ。
幸也くんのことをどれだけ大切に思っているのかそばにいていたいほど感じる。だからこそ俺といる時くらい肩の力を抜いて欲しい。自分に自由でいてほしいと願わずにはいられない。
幸也くんもそんな琴音の気持ちを感じているのだろう。本当にいい青年に育っているのがよくわかる。素直で、それでいて芯は強い。
琴音がお風呂に入っている時に改めて俺に頭を下げてきたのには少し驚いた。
「姉ちゃんは本当に苦労してきたんです。俺を施設に預けるように親戚が話していたのは知ってます。預ければよかったのにしなかったことはすごく感謝してるんです。でもそのせいで20歳から本当に大変な思いしてきました。だから姉ちゃんには本当に幸せになってほしいんです。」
「苦労してきているのはわかっているよ。でも琴音は幸也くんといたくていたんだ。だから君がそんなに琴音に対して迷惑をかけたとか負担に思わなくていい。でもこれからは俺も君と家族になりたいと思っている。琴音を支えていきたいと思っている」
「ありがとうございます。いじっぱりなところも、頑固なところもあるんです。でも自分の姉ながら本当に人のいい人間だと思います。宗介さん、どうかよろしくお願いします」
そう言って幸也くんは俺に深く頭を下げてきた。
きっと彼なりに琴音の負担になっていることを感じ続けてきたのだろう。
琴音の寝顔を見ていると、胸の奥のどこかがゆっくりと溶けていくような感覚になる。
「……おやすみ」
小さく口にすると彼女の髪にそっと触れた。柔らかくてしなやかでもっと触れたいと手を伸ばしたくなるがグッと手を握り締めると彼女から手を引いた。
ダメだな、何もしないと言ったのに……と苦笑する。
彼女の話を聞くたび、触れるたびに自分の中の“守りたい”という気持ちが少しずつ強くなっていった。
この距離を超えてはいけないとわかっている。
でも、願わずにはいられない。
いつか、この時間が“嘘”じゃなくなれば、と。
そう心の中で呟きながらもう一度彼女の寝顔に目をやると、安らかな表情に胸の奥の何かがふっと解けていく。
その温もりの余韻を感じがら俺も静かに目を閉じた。
隣から聞こえていた小さな寝息が、やがて穏やかに変わっていった。
そっと目を向けると、琴音は毛布の端を胸のあたりまで引き上げ、
まるで寒さを閉じ込めるように眠っていた。
最初は緊張していたのだろう。肩が強張っていたのに、いまはその表情がすっかりやわらいでいる。
彼女の頬を照らす間接照明の光が、やけに柔らかく見えた。
この数ヶ月で、彼女がどれだけのことを抱えて生きてきたのか、そばで見ていて痛いほどわかる。
頑張りすぎて、誰にも頼らず、それでも笑ってみせる——そんな人だ。
幸也くんのことをどれだけ大切に思っているのかそばにいていたいほど感じる。だからこそ俺といる時くらい肩の力を抜いて欲しい。自分に自由でいてほしいと願わずにはいられない。
幸也くんもそんな琴音の気持ちを感じているのだろう。本当にいい青年に育っているのがよくわかる。素直で、それでいて芯は強い。
琴音がお風呂に入っている時に改めて俺に頭を下げてきたのには少し驚いた。
「姉ちゃんは本当に苦労してきたんです。俺を施設に預けるように親戚が話していたのは知ってます。預ければよかったのにしなかったことはすごく感謝してるんです。でもそのせいで20歳から本当に大変な思いしてきました。だから姉ちゃんには本当に幸せになってほしいんです。」
「苦労してきているのはわかっているよ。でも琴音は幸也くんといたくていたんだ。だから君がそんなに琴音に対して迷惑をかけたとか負担に思わなくていい。でもこれからは俺も君と家族になりたいと思っている。琴音を支えていきたいと思っている」
「ありがとうございます。いじっぱりなところも、頑固なところもあるんです。でも自分の姉ながら本当に人のいい人間だと思います。宗介さん、どうかよろしくお願いします」
そう言って幸也くんは俺に深く頭を下げてきた。
きっと彼なりに琴音の負担になっていることを感じ続けてきたのだろう。
琴音の寝顔を見ていると、胸の奥のどこかがゆっくりと溶けていくような感覚になる。
「……おやすみ」
小さく口にすると彼女の髪にそっと触れた。柔らかくてしなやかでもっと触れたいと手を伸ばしたくなるがグッと手を握り締めると彼女から手を引いた。
ダメだな、何もしないと言ったのに……と苦笑する。
彼女の話を聞くたび、触れるたびに自分の中の“守りたい”という気持ちが少しずつ強くなっていった。
この距離を超えてはいけないとわかっている。
でも、願わずにはいられない。
いつか、この時間が“嘘”じゃなくなれば、と。
そう心の中で呟きながらもう一度彼女の寝顔に目をやると、安らかな表情に胸の奥の何かがふっと解けていく。
その温もりの余韻を感じがら俺も静かに目を閉じた。