君を守る契約
翌朝の空は薄い灰色をしていて、リビングには湯気の立つ味噌汁の香りが広がっていた。
宗介さんは腕時計を確認しながらコーヒーを飲んでいる。
私は髪をまとめながらコートを羽織り、幸也はソファに座って二人を見上げていた。

「じゃあ、私たち、行ってくるね」

「何時に帰ってくるの?」

「うーん。今日は18時くらいかな。できるだけ早く帰るけど。大丈夫?」

「何歳だと思ってんの?」

幸也はそう言って笑う。

「冷蔵庫のものは自由に使ってね。無理に出かけなくてもいいから」

「わかった。気をつけて」

そのやりとりの途中で、私がストールを巻こうとすると、宗介さんがそっと近づいてきた。

「ほら、もっとちゃんと巻かないと寒いぞ」

ふわりとストールを持ち上げて首もとを包み込むように巻き直してくれる。その動作は何でもないことのように自然で、けれど頬が一気に熱くなった。

「あ、ありがとうございます……。でも自分でできますから」

慌てて笑う私の横で、幸也が目を丸くしていた。

「……なんか、姉ちゃんたち、すごく仲いいね」

その声に宗介さんが軽く笑って、「そう見えるならうれしいな」と返す。
なんでもないやりとりなのに、なぜか心の奥に小さな波紋が広がった。

玄関で靴を履きながら、「行ってきます」と声をそろえると、
幸也が「いってらっしゃい!」と手を振ってくれた。
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