君を守る契約
***
昼過ぎの部屋は、穏やかな静けさに包まれていた。
テレビの音も消して、ぼんやりと窓の外を眺める。空港に近いせいか空を見上げると時々飛行機が見えた。
宗介さんもあの誰かを操縦してるのかな?そう思ってみつめていた。
そんな時にふと、朝の光景が思い出された。
姉ちゃんの首にストールを巻いてやる宗介さんの手つきと、それを照れたように笑う顔。
“姉ちゃん、ほんとに幸せそうだな”
そんな言葉が自然と心の中に浮かんだ。
今まで苦労をかけてきたことは十分にわかっている。今の俺くらいの頃から小学生を抱え生活してきたのだと考えるだけで頭が下がる思いだ。今だって俺を医学部に通わせるために大変な思いをしているのはわかっている。脇目も振らず、仕事と家事と子育てに奔走してきた姉ちゃんがあんなに優しい顔で笑っているのを見て心の底から安心した。
自分にしてあげられることなんて限られている。それでもふたりに何かしてあげたい。
そう思い立ち、俺はキッチンに向かった。
冷蔵庫を開けると、野菜や卵、そして少し残っていた鶏肉。

「これで……なんとかなるかな」

慣れない手つきで包丁を握り、昼から夕方にかけて台所に立ち続けた。

香ばしい匂いが部屋いっぱいに広がるころ、玄関の鍵が回る音がした。

「ただいま」

「おかえりなさい!」

宗介さんが先に帰ってきたようだ。玄関まで迎えにいくと「なんだかいい匂いがする」と笑顔でリビングへ入ってきた。そしてテーブルの上を見て目を見開いた。

「これ、幸也くんが?」

「はい。お世話になったので、少しでもお礼したくて」

皿の上には、照り焼きチキンと具だくさんの野菜スープ。ものすごいディナーとは程遠いが、ネットでレシピを見ながらようやく作ったものだ。

「すごいな。俺も琴音に教わりながら手伝うけど全然なんだ」

そう苦笑いを浮かべる宗介さんを見てるとふたりがキッチンに立つ姿が目に浮かぶようだ。
時間差で姉ちゃんも帰ってくると俺の作った料理に驚いていたが、とても嬉しそうに笑ってくれた。
三人で食卓を囲み、笑い声がこぼれる。
ほんの数日しか一緒に過ごしていないのに、まるでずっと前から家族だったような心地がした。
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