君を守る契約
***
翌朝の空港。
出発ロビーは朝早くから人であふれていた。
宗介さんはパイロットの制服姿で、私はスカーフを整え、幸也はリュックを背負って私たちの後ろを歩いている。

「お姉ちゃん、なんかいつもより大人っぽいね」

「え? いつも大人ですけど?」

そう言って笑うと、幸也は「そうだね」と小さく笑った。その笑顔が少しだけ寂しげに見えて、胸の奥がきゅっとした。

宗介さんは幸也の隣に立ち、穏やかな声で言った。

「改めて、来てくれてありがとう。楽しかったよ」

「俺もです。あんなにちゃんとした“家族の年越し”って久しぶりでした」

「またいつでも来てくれていい。次は春か、夏でも」

「はい!」

幸也は照れくさそうに笑い、それから私の方を見た。

「姉ちゃん、ちゃんと食べて、ちゃんと寝て。あんまり無理しないでね」

「もう、子どもみたいなこと言わないでよ。幸也こそちゃんと食べるのよ」

「はいはい、わかってるって」

幸也は苦笑いを浮かべているが、またしばらく会えないと思うと心配でならない。そして寂しさに目頭が少し熱くなる。

「ほら、そろそろ行かないと」

宗介さんの声に促され、幸也は出発ゲートの方へ歩き出す。宗介さんも別のゲートに向かうが、ふたりで歩く後ろ姿になんとも言えない気持ちが湧き上がる。肩を並べて歩くその姿が、どうしようもなくまぶしく見えた。数日ではあったが家族として過ごした時間が本物であるように勘違いしてしまいそう。偽の旦那さんと弟の並ぶ姿を見ていると幸也に嘘をついているのが心に重くのしかかる。

「……やっぱり、かっこいいな」

宗介さんの後ろ姿に自分でも気づかぬうちに口から漏れた。
ゲート前で振り返ると幸也は私の方に手を振った。私も小さく手を上げる。幸也は宗介さんに何か言うと、彼に肩を叩かれ、笑いながらゲートをくぐって行った。
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