君を守る契約
ふわり、と光がまぶたをくすぐった。
目を開けると、カーテンの隙間から差し込む柔らかな朝日がゆっくりと寝室を満たしていた。
昨日、彼の隣で眠ったせいか遅い時間に寝たのに熟睡感がある。

(宗介さん……起きてるかな)

そっと視線を横に向けると彼はまだ静かに眠っていた。昨夜と同じ姿勢で、乱れた前髪が頬に落ちている。
寝ている時の宗介さんは、いつもの落ち着いた雰囲気と違ってほんの少し幼く見える。
気を抜けば指が触れてしまいそうなのに、それでも彼は決して手を伸ばしてはこない。
“何もしない”と言ったあの約束を守ったまま。その誠実さが、また私の胸を締めつけた。

「……ん」

小さく寝返りを打つ音がして、宗介さんの指先が布団の上でほんの少し動いた。

(起こしちゃう……)

私は慌ててそっと布団を抜け出し、足音を立てないようにキッチンへ向かった。冷たいフローリングが足元に触れ、現実がじわりと戻ってくる。
冷蔵庫を開け、卵とウインナーを取り出す。焼きたてのトーストと目玉焼き。それから、昨日の残りの豚汁を温める。
コンロの小さな火がゆらゆら揺れて、静かな朝の空気の中にお味噌のいい香りがし始める。

「おはよう」

振り返ると、宗介さんがまだ眠気の残る顔でキッチンに立っていた。

「お、おはようございます。起こしちゃいました?」

「いや……隣にいないから、ちょっと焦って起きた」

「す、すみません……!」

「謝ることじゃないよ」

そう言って、ふっと笑った。眠気のせいか少し優しすぎる笑顔だ。

「……よく寝れた?」

胸の奥がぎゅっとなるような問い。思わず視線をそらしてしまった。

「……はい。すごく」

「それならよかった」

ゆっくりと近づいてきて、キッチンカウンターに手を置く。

「昨日、ありがとう。隣で……寝てくれて」

その言葉に一瞬息が止まり、胸の奥がじわりと熱くなる。

「い、いえ……!」

ただ眠っただけなのに、こんなにも心が乱れるなんて思っていなかった。宗介さんはそんな私の気持ちを察したのか、いつもの表情に戻し、小さく息を吐いた。

「朝ごはん、手伝うよ」

「大丈夫です。すぐできますので!」

「……そっか。じゃあ、コーヒー淹れる」

そう言ってキッチンに入る彼の姿がいつもより少しだけ近く感じた。
ほんの少しの距離が縮まった朝。
でも、その“ほんの少し”がこれからの大きな変化の始まりのように思えてしまった。
< 75 / 121 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop