君を守る契約
午前の出発ラッシュが落ち着き、私は案内カウンター横で書類を整理していた。
そのとき——。
「浅川さーん!!!」
突然名前を呼ばれ、振り返ると、昨日案内カウンターのトラブルで私がフォローした新人パイロットの白石くんが駆け込んできた。彼は今日もキラキラした笑顔でCAたちの視線を一気に集めていた。
「昨日はほんっっっとうにありがとうございました! お客様、めちゃくちゃ怒ってたのに浅川さんのおかげで丸く収まりました」
勢いよく彼は私との距離を詰めてくる。
近い。
近い。
だから近いよ!!!
「し、白石くん、落ち着いて……!」
「いやもう本当、浅川さんって神対応っす! 俺、マジで救われました!」
悪気ゼロ。むしろ懐っこい子犬みたいに純粋な笑顔でまるで年の離れた弟のよう。幸也より年上のはずだが、なぜか年下に思えてしまうのが不思議だ。
「浅川さん、今日スカーフ違います? 冬仕様ですよね? めっちゃ似合ってます!」
ふいに私の巻いているスカーフに目をとめ、褒めてくれる。彼は本当に目についたものはそのままに口にするタチなのだろう。
「あ、うん。ありがとう」
周囲のCAがクスクス笑っている。
「白石くんまた浅川さんに懐いてるよね」
「ほんと人懐っこいよね」
そんな和やかな空気が流れた。が、その直後空気が一瞬で張りつめた。
「……白石」
低く、静かな声が、通路に落ちた。
ハッと振り返ると宗介さんが立っていた。
黒い制服。無表情はいつも通り。ただ、目だけが笑っていない。いつもクールだけど、なぜか今日は輪をかけて冷気さえ漂っている気がする。
「き、機長! おはようございます!」
白石くんが反射的に直立不動になる。宗介さんは、咎める声は出さない。むしろいつも通り淡々としている。だが、「朝からずいぶん賑やかだな」とただ一言告げる。それで空気がビジっと正された。
「す、すみません! つい……!」
「浅川をつかまえて騒ぐほどの話か?」
「い、いや! 全然! その……助けてもらったんで……!」
宗介さんは淡々と言う。
「助けてもらったなら、感謝だけして仕事に戻れ。長々と立ち止まるな」
丁寧な言葉なのに。完全に“帰れ”の圧がのっていた。
「は、はいっ!!!」
白石くんは慌てて敬礼すると「浅川さーんまたお願いしますー!!」と叫びながら走って行った。その姿さえなんだか子犬のようで可愛らしく見えた。
そのとき——。
「浅川さーん!!!」
突然名前を呼ばれ、振り返ると、昨日案内カウンターのトラブルで私がフォローした新人パイロットの白石くんが駆け込んできた。彼は今日もキラキラした笑顔でCAたちの視線を一気に集めていた。
「昨日はほんっっっとうにありがとうございました! お客様、めちゃくちゃ怒ってたのに浅川さんのおかげで丸く収まりました」
勢いよく彼は私との距離を詰めてくる。
近い。
近い。
だから近いよ!!!
「し、白石くん、落ち着いて……!」
「いやもう本当、浅川さんって神対応っす! 俺、マジで救われました!」
悪気ゼロ。むしろ懐っこい子犬みたいに純粋な笑顔でまるで年の離れた弟のよう。幸也より年上のはずだが、なぜか年下に思えてしまうのが不思議だ。
「浅川さん、今日スカーフ違います? 冬仕様ですよね? めっちゃ似合ってます!」
ふいに私の巻いているスカーフに目をとめ、褒めてくれる。彼は本当に目についたものはそのままに口にするタチなのだろう。
「あ、うん。ありがとう」
周囲のCAがクスクス笑っている。
「白石くんまた浅川さんに懐いてるよね」
「ほんと人懐っこいよね」
そんな和やかな空気が流れた。が、その直後空気が一瞬で張りつめた。
「……白石」
低く、静かな声が、通路に落ちた。
ハッと振り返ると宗介さんが立っていた。
黒い制服。無表情はいつも通り。ただ、目だけが笑っていない。いつもクールだけど、なぜか今日は輪をかけて冷気さえ漂っている気がする。
「き、機長! おはようございます!」
白石くんが反射的に直立不動になる。宗介さんは、咎める声は出さない。むしろいつも通り淡々としている。だが、「朝からずいぶん賑やかだな」とただ一言告げる。それで空気がビジっと正された。
「す、すみません! つい……!」
「浅川をつかまえて騒ぐほどの話か?」
「い、いや! 全然! その……助けてもらったんで……!」
宗介さんは淡々と言う。
「助けてもらったなら、感謝だけして仕事に戻れ。長々と立ち止まるな」
丁寧な言葉なのに。完全に“帰れ”の圧がのっていた。
「は、はいっ!!!」
白石くんは慌てて敬礼すると「浅川さーんまたお願いしますー!!」と叫びながら走って行った。その姿さえなんだか子犬のようで可愛らしく見えた。