君を守る契約
夕食を終えると、宗介さんがケーキをテーブルに置いた。
「ワインに合うみたいだ。一緒に食べようか」
「はい!」
彼はコーヒーテーブルにケーキを運ぶとワインクーラーにあった赤ワインを取り出してきた。明日宗介さんは乗務でないのでお酒を飲んでも大丈夫なのだろう。ワイングラスに注がれるのを見ながらワクワクしつつソファに並んで座った。
ケーキはスプーンを入れた瞬間、しっとりと沈む。
「……濃厚ですね」
「そうだな。……バレンタインだから」
その“だから”の一言に、なぜか胸がくすぐったくなった。
私はそっと立ち上がり、キッチンに隠してあった小さな箱を取り出す。淡いピンクの包装紙に細いリボンをかけた、小さな手作り感のある箱。それを彼に差し出した。
「えっと……私からも、少しだけ。渡したくて……」
宗介さんは目を瞬かせ、そしてゆっくり手を伸ばした。リボンを外し、箱を開けると中には売っているものとは違う少しだけ歪なチョコ。
「生チョコ?」
「はい。どうしても、自分で作りたくて。でも見た目はイマイチですよね」
苦笑いを浮かべながらそう伝えると驚いたような表情を浮かべている。
「琴音が作った?」
私が頷くとじっと食い入るように見つめていた。
ココアパウダーが薄くまぶされた四角いチョコ。それをスプーンですくったように柔らかそうな質感。
「食べてみてください」
声をかけると宗介さんは私の顔を見つめてきた。そして何かを考え込むような表情を浮かべたと思うと、「琴音が食べさせてくれる?」と口を開いた。思わず目を見開くと、彼は続けて「今日はバレンタインだから」と言った。そのままチョコを口に運ぼうとせず、箱を持ったまま私の顔を見つめ続ける。食べさせてくれるのを期待するような表情に私は根負けし、一粒を指でつまむと彼の口元に運んだ。
そして彼の目がわずかに揺れた。
「……溶けるな」
「はい。柔らかめに作ったので……」
「すごく、美味しいよ。もうひとつもらっていい?」
そう言うと彼は口を開けていた。私は箱からもう一粒取り出しとそっと彼の口元へ運ぶ。触れるか触れないかの距離感に宗介さんの呼吸が、ふっと止まる。私は指に溶けてしまったチョコを自分の唇で舐め取っていた。それを見た宗介さんの瞳が大きく揺れ、息が乱れた。
「……琴音」
低い。今まで聞いたことのない声。一歩近づけば、壊れてしまいそうなほど張り詰めた空気が部屋を満たす。
私は彼の口の端についたココアパウダーが気になり手を伸ばす。そして指先で拭き取った。
その一瞬後、彼はぎゅっと拳を握りしめ、目を閉じた。
「……危なかった」
小さく、苦笑に似た息を漏らす。
「え……?」
「もう少し続いたら……止められなかった。その指、さっき……チョコを舐めただろう?」
それを聞いた瞬間、体の奥が熱くなるのを感じた。
「ご、ごめんなさい……」
「違う。謝るな。……俺の問題だから…琴音が触れてくれるのは嬉しい。でも今はまずい」
そう言って深く息をつく。でも、その横顔は明らかに動揺していた。
「まずい?」
「……本気で抱きたくなるから」
その瞬間私の心臓が跳ね上がるように強く打ち始める。彼は私の目を見つめていたが、ふと視線を外した。
「今日は……危ない。俺の理性があるうちに離れよう。琴音のチョコ、本当に美味しかったよ」
そう言うと彼は少し腰をあげ、私から距離をとった。この言葉は脅しではなく誠実な警告だったと思う。でも私の胸の奥に灯った小さな火はもう消えなかった。
「ワインに合うみたいだ。一緒に食べようか」
「はい!」
彼はコーヒーテーブルにケーキを運ぶとワインクーラーにあった赤ワインを取り出してきた。明日宗介さんは乗務でないのでお酒を飲んでも大丈夫なのだろう。ワイングラスに注がれるのを見ながらワクワクしつつソファに並んで座った。
ケーキはスプーンを入れた瞬間、しっとりと沈む。
「……濃厚ですね」
「そうだな。……バレンタインだから」
その“だから”の一言に、なぜか胸がくすぐったくなった。
私はそっと立ち上がり、キッチンに隠してあった小さな箱を取り出す。淡いピンクの包装紙に細いリボンをかけた、小さな手作り感のある箱。それを彼に差し出した。
「えっと……私からも、少しだけ。渡したくて……」
宗介さんは目を瞬かせ、そしてゆっくり手を伸ばした。リボンを外し、箱を開けると中には売っているものとは違う少しだけ歪なチョコ。
「生チョコ?」
「はい。どうしても、自分で作りたくて。でも見た目はイマイチですよね」
苦笑いを浮かべながらそう伝えると驚いたような表情を浮かべている。
「琴音が作った?」
私が頷くとじっと食い入るように見つめていた。
ココアパウダーが薄くまぶされた四角いチョコ。それをスプーンですくったように柔らかそうな質感。
「食べてみてください」
声をかけると宗介さんは私の顔を見つめてきた。そして何かを考え込むような表情を浮かべたと思うと、「琴音が食べさせてくれる?」と口を開いた。思わず目を見開くと、彼は続けて「今日はバレンタインだから」と言った。そのままチョコを口に運ぼうとせず、箱を持ったまま私の顔を見つめ続ける。食べさせてくれるのを期待するような表情に私は根負けし、一粒を指でつまむと彼の口元に運んだ。
そして彼の目がわずかに揺れた。
「……溶けるな」
「はい。柔らかめに作ったので……」
「すごく、美味しいよ。もうひとつもらっていい?」
そう言うと彼は口を開けていた。私は箱からもう一粒取り出しとそっと彼の口元へ運ぶ。触れるか触れないかの距離感に宗介さんの呼吸が、ふっと止まる。私は指に溶けてしまったチョコを自分の唇で舐め取っていた。それを見た宗介さんの瞳が大きく揺れ、息が乱れた。
「……琴音」
低い。今まで聞いたことのない声。一歩近づけば、壊れてしまいそうなほど張り詰めた空気が部屋を満たす。
私は彼の口の端についたココアパウダーが気になり手を伸ばす。そして指先で拭き取った。
その一瞬後、彼はぎゅっと拳を握りしめ、目を閉じた。
「……危なかった」
小さく、苦笑に似た息を漏らす。
「え……?」
「もう少し続いたら……止められなかった。その指、さっき……チョコを舐めただろう?」
それを聞いた瞬間、体の奥が熱くなるのを感じた。
「ご、ごめんなさい……」
「違う。謝るな。……俺の問題だから…琴音が触れてくれるのは嬉しい。でも今はまずい」
そう言って深く息をつく。でも、その横顔は明らかに動揺していた。
「まずい?」
「……本気で抱きたくなるから」
その瞬間私の心臓が跳ね上がるように強く打ち始める。彼は私の目を見つめていたが、ふと視線を外した。
「今日は……危ない。俺の理性があるうちに離れよう。琴音のチョコ、本当に美味しかったよ」
そう言うと彼は少し腰をあげ、私から距離をとった。この言葉は脅しではなく誠実な警告だったと思う。でも私の胸の奥に灯った小さな火はもう消えなかった。