君を守る契約
いつもと何も変わらない空港。制服のスカーフを整え、業務に集中しようとしても、胸の奥ではずっと彼の声が反芻してくる。

——無理してないか
——疲れてないか
——送ろうか？

夫婦になってからずっと優しかったけれど、昨日からその優しさの意味が変わった気がして、どうしても心が落ち着かない。
ふとするたびに昨日のことが頭の中に蘇り、私の心臓は騒がしい一日だった。
シフト終わり、夕暮れのターミナルを抜けた瞬間見覚えのある黒い車が静かに停まり、助手席の窓が開くと彼の顔が中から覗き見えた。

「お疲れ。……迎えに来た」

驚いて立ち止まる私を見て、宗介さんの眉が少しだけ下がる。

「迷ったんだけど……やっぱり、迎えに来たくて」

胸が一瞬で熱くなる。
だけど、その瞬間通りかかった同僚たちがざわっと小さく騒いだ。

「あれ……松永機長？」
「迎えに来てる……？」
「奥さんって、噂の……？」

小さなざわめきが耳に届く。
宗介さんは気にした様子も見せず、驚く私に早く乗るように促してくる。

「行こう。……寒いから」

言葉は短いのに、昨日よりずっと距離が近い。
助手席に乗り込むと車内は暖かくて、彼の匂いがふわりとする。シートベルトを締める手が少し震えた。
車が走り出すがふたりに漂う微妙なぎこちない沈黙。でも決して嫌な沈黙ではない。ただ私たちの関係は変わってしまったのだと思った。それがいいのか悪いのかはわからない。でも私に後悔はない。彼の気持ちはわからないけれど、少なくとも私にとっては嫌なことではなく、自ら望んだことだと自覚していた。
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