君を守る契約
家に着く彼はそのままキッチンに立った。慌てて私も続くが彼はテーブルに座るよう促されてしまう。

「今日は俺が作ったんだ。と言ってもカレーなんだけど」

彼は鍋を温め始めるとその間に冷蔵庫からサラダを取り出した。炊飯器からご飯を盛り、温まったルーをかけると私の前に運んでくれた。

「琴音も知っての通り、料理はあまりできないから簡単なカレーにしたんだ。パッケージの説明通り作ったから味は大丈夫なはず」

彼は私が食べるのを心配そうに見つめスプーンを握り締めたままでいた。一口食べてみるとしっかり煮込んだのか具材がとろけていて美味しい。

「とっても美味しいです」

私が食べ進めるのを見て彼はようやくホッとしたように自分も食べ始めた。

「琴音の料理の足元にも及ばないけど、普通に美味しいな」

苦笑いを浮かべる彼に、

「本当に美味しいですよ。誰かに作ってもらった料理を食べるなんて久しぶりなんです。だからその気持ちも嬉しくて。あ……でも、宗介さんにいつも作って欲しいって言ってるわけじゃないですよ。私が家事もこなすのが契約ですし」

なんの意識もせず“契約“と言う言葉が出てしまい自分自身でハッとした。そして彼もなんとも言えない表情を浮かべていた。こうして向かい合って食事をしていると本当の夫婦になったような気になってしまっていたが、私たちの関係は終わりのある契約。自分の口からでた言葉なのに背筋がひんやりとした感じがした。
何事もなかったように私たちは食事を終えるといつものように食後のコーヒーを楽しみ、入浴すると寝室に向かった。
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