君を守る契約
宗介サイド
朝、目を覚ました瞬間、隣からは穏やかな寝息が聞こえてきた。仕事をしている時とは違う気を許したそのあどけない表情に俺の理性はまた緩みそうになってしまった。
昨夜、あれほど深く触れ合ったはずなのにまた今すぐにでも彼女を欲してしまう自分が情けない。昨日は今まで押しこめてきたものが一気に溢れ貪るように彼女を抱いてしまった。彼女の切ない声が耳をくすぐり、呼吸の仕方さえ忘れるほど自分でも信じられないくらいに彼女に夢中になってしまった。
そっと寝室の扉を開け、コーヒーメーカーをセットする。コポコポと湧き上がる音が静かな朝の部屋に響き、香りが広がったところで琴音が慌ててリビングに入ってきた。パーカーの袖を引き上げながらこちらを振り返り、頬を赤くする。
「ご、ごめんなさい……遅くなりました」
その言葉を聞いた瞬間、昨夜の断片が一気に蘇り、心臓が跳ねた。あんな顔で、あんな声で、俺の名前を呼んでいたのに。平静を装う意味を探しながら、気づけば彼女に近づいていた。
「琴音……大丈夫か? 無理してないか?」
声が柔らかくなりすぎて、思わず目を逸らした。昨夜から抑えようとしてもうまく抑えきれない。
触れれば、簡単にあの続きを求めてしまいそうで——。
朝食の時の沈黙も、琴音が着替え支度を整えるすべてが、昨日の続きを思い出させてくる。
「空港まで送ろうか?」
本当は“そばにいたかった”だけだ。だが琴音に断られた時、なんだか寂しいような複雑な感情が胸の奥で渦を巻いた。彼女が玄関を出たあと、リビングでしばらく動けなかった。
もうこれは、契約の関係じゃない。
俺はそう言い切れる。それでも琴音がどう思っているかはわからない。だから踏み込むことはできない。踏み込んでしまい、彼女の逃げ道を塞ぎ、困らせてしまうのではないか。そうなったらきっと取り返しがつかなくなる。後悔しても仕切れないだろう。こんなにも手を伸ばしたいのにもどかしい。一度腕の中に入れてしまった彼女をどう足掻いても離してあげることなんてできないのに。
夕方、気がつけば車を走らせていた。空港に着く少し前、ふとミラーに映る自分の顔を見て唖然とする。
迎えに行く理由なんて、もうどこにも残っていない。それでもこうして車を走らせてしまったのは、ただ、会いたかったからだ。
従業員の出口に琴音が姿を見せた瞬間、張り詰めていた何かが一度に解けた。
「お疲れ。……迎えに来た」
彼女が驚く顔が可愛くて、それを悟られないように短く言葉を切った。
周囲がざわつく声が耳に入る。だが、どうでもよかった。彼女の顔を見て、自分の車に乗せることができただけで心の奥が温かくなった。
家に戻ってカレーを出すと琴音は驚いた表情を浮かべていた。作ってもらった料理を食べるなんて久しぶりだといい、はにかむ姿がとても可愛らしかった。少しでも彼女が安心できるように、昨日のことを思い出させすぎないように、言葉を選ぶ自分がいた。
それなのにふとした会話で出た“契約“に言葉が氷のように胸を冷やした。
でも、琴音がそれを気にしていることも、言って後悔したように目を伏せることも、全部、愛しくて苦しかった。
昨夜、あれほど深く触れ合ったはずなのにまた今すぐにでも彼女を欲してしまう自分が情けない。昨日は今まで押しこめてきたものが一気に溢れ貪るように彼女を抱いてしまった。彼女の切ない声が耳をくすぐり、呼吸の仕方さえ忘れるほど自分でも信じられないくらいに彼女に夢中になってしまった。
そっと寝室の扉を開け、コーヒーメーカーをセットする。コポコポと湧き上がる音が静かな朝の部屋に響き、香りが広がったところで琴音が慌ててリビングに入ってきた。パーカーの袖を引き上げながらこちらを振り返り、頬を赤くする。
「ご、ごめんなさい……遅くなりました」
その言葉を聞いた瞬間、昨夜の断片が一気に蘇り、心臓が跳ねた。あんな顔で、あんな声で、俺の名前を呼んでいたのに。平静を装う意味を探しながら、気づけば彼女に近づいていた。
「琴音……大丈夫か? 無理してないか?」
声が柔らかくなりすぎて、思わず目を逸らした。昨夜から抑えようとしてもうまく抑えきれない。
触れれば、簡単にあの続きを求めてしまいそうで——。
朝食の時の沈黙も、琴音が着替え支度を整えるすべてが、昨日の続きを思い出させてくる。
「空港まで送ろうか?」
本当は“そばにいたかった”だけだ。だが琴音に断られた時、なんだか寂しいような複雑な感情が胸の奥で渦を巻いた。彼女が玄関を出たあと、リビングでしばらく動けなかった。
もうこれは、契約の関係じゃない。
俺はそう言い切れる。それでも琴音がどう思っているかはわからない。だから踏み込むことはできない。踏み込んでしまい、彼女の逃げ道を塞ぎ、困らせてしまうのではないか。そうなったらきっと取り返しがつかなくなる。後悔しても仕切れないだろう。こんなにも手を伸ばしたいのにもどかしい。一度腕の中に入れてしまった彼女をどう足掻いても離してあげることなんてできないのに。
夕方、気がつけば車を走らせていた。空港に着く少し前、ふとミラーに映る自分の顔を見て唖然とする。
迎えに行く理由なんて、もうどこにも残っていない。それでもこうして車を走らせてしまったのは、ただ、会いたかったからだ。
従業員の出口に琴音が姿を見せた瞬間、張り詰めていた何かが一度に解けた。
「お疲れ。……迎えに来た」
彼女が驚く顔が可愛くて、それを悟られないように短く言葉を切った。
周囲がざわつく声が耳に入る。だが、どうでもよかった。彼女の顔を見て、自分の車に乗せることができただけで心の奥が温かくなった。
家に戻ってカレーを出すと琴音は驚いた表情を浮かべていた。作ってもらった料理を食べるなんて久しぶりだといい、はにかむ姿がとても可愛らしかった。少しでも彼女が安心できるように、昨日のことを思い出させすぎないように、言葉を選ぶ自分がいた。
それなのにふとした会話で出た“契約“に言葉が氷のように胸を冷やした。
でも、琴音がそれを気にしていることも、言って後悔したように目を伏せることも、全部、愛しくて苦しかった。