君を守る契約
夜、寝室の前で視線が重なった時、昨夜の熱が胸の奥でゆらりと揺れた。

——もう一度抱きたい。
——でも、そんなことを望んではいけない。

その狭間で揺れる自分が情けなくて、彼女の手に触れたのはほんの指先だけだった。

「手を……繋いでもいいか?」

初めて触れた夜よりずっと慎重で、初めて触れた夜よりずっと心が震えていた。
布団の下で指を絡めた瞬間、心臓が痛いほどに跳ねる。

「昨日のこと……後悔していないか?」

気づけば、聞かずにはいられなかった。怖くて、苦しくて、それでも聴きたかった。

「……後悔なんてしていません」

その一言で、胸の奥が一気に熱くなった。彼女の手がわずかに震えていて、それを包み込むように握りながら、ひとつだけ気づく。

もう、契約で割り切れる気持ちではない。

でも今それを言えば、琴音を困らせる。だから俺は口に出せずにいた。ただ黙って、琴音が眠るまで手を繋ぎ続けた。
素直に俺のものになって、といいたい。
でも最初に言ってしまった契約の言葉が今になり自分の足枷になってしまっていた。胸に重しが乗るように苦しい。
最初からやり直したい。
彼女の身も心も未来も全て欲しい。
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