君を守る契約
玄関のドアを閉めた瞬間、足の力が抜け、靴も脱がないまま壁に手をついて深く息を吸う。

——だめだ、気持ち悪い。

空港の医務室で感じたあの違和感は、家に戻った今も消えていなかった。頭がぼんやりして、胸の奥が重たい。
何より、さっき医師に言われたあの一言が、耳の奥で何度も繰り返されている。

妊娠初期なんかも、似た症状が出ることがありますよ。

……まさか、とは思う。
でも、思い当たることがないわけじゃない。

ゆっくり洗面所に向かい、たった今買ってきたばかりの箱を袋から取り出したその手が小さく震えている。
判定が出るまでの数十秒が、やけに長く感じた。
——見たくない。
——でも、見ないわけにはいかない。
恐る恐る目を向けた先に、くっきりと浮かんだ二本線。

「……」

声が出なかった。世界の音が、すっと遠のく。
やっぱり。
否定したかった気持ちと、どこかで予感していた自分が、同時に胸に落ちてきた。
思わずお腹に手を当てた。もちろん、何も感じない。まだ、何もわからないくらい小さな命。

——どうしよう。

その問いに、答えはすぐに出なかった。
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