君を守る契約
その時スマートフォンが震えた。画面には、宗介さんの名前でそれを見て胸の奥がぎゅっと掴まれるようだった。

【体調どうだ? 無理してないか】

いつもと変わらない、短いメッセージ。それが、今はひどく胸に刺さる。

【大丈夫です。今日はもう家に着きました】

嘘はついていない。でも、これ以上は何も言えない。私は彼への謝罪を心の中で呟いて、スマホを伏せた。

それから数日後、私は病院に向かった。そこで診察室のモニターに映し出された、小さな影。
医師が音量を上げると、力強いドクンドクンという音が部屋に響く。

「……心音、確認できますね」

モニター画面に映る小さな命だが聞こえてくる音はハッキリと生きている生命の音だ。その瞬間、胸の奥がぎゅっと締めつけられた。逃げ場のない現実と同時に、不思議と静かな覚悟が降りてくる。

——ああ、この子は、ちゃんとここにいる。

診察室を出る頃には、もう決めていた。

宗介さんには、言わない。
この子は、私が産む。

彼の人生を、これ以上揺らすわけにはいかない。
契約で始まった関係に、取り返しのつかない重荷を背負わせることなんて、できない。

家に戻ると、いつも通りの夜が待っていた。
彼は海外便続きで、帰宅は不規則だ。それでも、家に帰ってきてベッドに入ると自然と手を伸ばしてくる。

「……おやすみ」

小さな声と一緒に、指先が絡められる。
その温もりが、胸の奥に沁みる。

——離れなきゃ。

そう思うのに、手を振りほどけない。
毎晩、同じことを繰り返す。

この腕の中にいる時間が、残り少ないものになるかもしれないと思うと、どうしても決意が鈍る。
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