君を守る契約

もう迷惑をかけたくない

スマートフォンを握る手に力が入る。画面に表示された名前は大学時代から続く友人の里美。両親を失ったあの日も彼女はオロオロする私を落ちつかせてくれた。そして葬式の後や幸也のことを家族のように相談に乗ってくれる唯一無二の存在だ。そんな彼女にもこの契約結婚の話だけはできずにいた。この話をしたら反対するのがわかっていたからかもしれない。
意を決して久しぶりに里美へメッセージを送った。

【元気? あのね、少し相談があって連絡したの。里美のいいタイミングで話せないかな?】

するとすぐに既読がつき、彼女から着信があり驚いた。

「もしもし……」

『もしもし、琴音? どうしたのよ? 何かあった?』

その声を聞きホッとして涙が溢れてきてしまい、喉が詰まり声が出せない。


『琴音?』

落ち着いた里美の声が私を安心させようとするのがわかる。

「実は……少し、体調を崩していて……」

言葉を選びながら話す。妊娠のことも、契約のことも、彼の名前も出せなかった。

『うん』

「なんだかすごく疲れちゃって里美の声が聞きたくなっちゃった。ごめんね」

彼女の声に安心してそう言うと、

『今、どこにいるの?』

「品川」

『近いじゃないの。今すぐ来なさい』

即答だった。

『いつも言ってるでしょ。琴音はひとりで抱え込みすぎる癖があるって。とにかく温かいもの作って待ってるからすぐおいで』

その一言で、涙が溢れた。堪えようとしても、どうにもならなかった。

「うん……里美、ありがとう」

『泣いていいわ。ほら、こんなことしているより早くうちにくるといいよ。待ってるからね』

通話が終わったあとも、しばらくスマートフォンを胸に抱えたまま動けなかった。
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