ループするメイドは破滅ルートを回避したい!はずが、なぜか宰相様の溺愛ルートに入ってしまいました!?
 火照る頬、早鐘のような心臓の音。
 肩越しに感じるセドリックの存在に、どうしても意識が引き寄せられてしまう。

(ど、どうしよう……近い……)

 逃げ出したいのに、背後ではどうにもならない。
 震えそうな膝をぎゅっと押さえ込んでいると、かすかに楽しげな笑い声が耳に触れた。

 ふっと体温が離れる気配がして、アリアは小さく息をつく。
 けれど、胸の鼓動は一向に静まる気配がなかった。もう、自分の身に何が起こっているのかよく分からない。

(こんなのずるい……でも、すごく嬉しい……)

 胸に溢れる感情に気づきながら、アリアはそっと振り返る。
 目の前には、変わらぬ無表情を装いながらも、どこか満足げなセドリックが立っていた。

 頬を赤く染めたまま、アリアはそっと頭を下げる。

「……ありがとうございます、宰相閣下」

 その言葉のあと、セドリックの表情がわずかに動いた。
 どこか不満げで呆れたような――けれど、ほんの少しだけ甘い気配を帯びた表情で。

「君はいつまで『宰相閣下』と呼ぶつもりだ?」

「……へ?」

 アリアがきょとんと顔を上げる。

「そろそろ名前で呼んでもいいころじゃないのか?」

「なっ、ななな、何を言って……っ!そんな、不敬ですっ!私が閣下を名前で呼ぶなんてそんな……!」

「ではこの部屋にいるときだけにしておけばいい」

 さらりと返されたその提案に、アリアの脳内は真っ白になった。
 宰相閣下をメイドの自分が名前で呼ぶ?

(そんなの、無理無理無理無理……っ!)

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