ループするメイドは破滅ルートを回避したい!はずが、なぜか宰相様の溺愛ルートに入ってしまいました!?
 アリアはロレッタとともに使用人部屋へと戻った。
 王宮審問局も明日の審問会の準備に向けて動いているためか、ロレッタの言う通り監視が手薄になっているのが幸いだった。

 ロレッタはアリアの乱れた髪を直しながら「ゆっくり休むんだよ」と言い残して、別室へ移動した。扉が閉まり、部屋の叶が静寂に包まれる。

 アリアの体から一気に力が抜け落ちた。

 ユーリの正体と、あの冷たい笑み。そして突きつけられた言葉が、今も胸の奥に刻まれたまま鈍く脈打ち続けていた。

(……どうしたらいいんだろう)

 偽硬貨に使われた鋳型を、エレナの部屋から見つけたと証言する。
 そうすればセドリックのことは助けると言ったが、その瞬間、エレナをありもしない罪で裏切ることになる。
 瞼の裏に浮かんだのは、天然で純粋な笑顔を見せてくれたエレナの姿。
 どんなに陰口を叩かれても窮地に追い込まれても、決して人を疑わない彼女を、嘘の証言で断罪する。

(私がエレナ様を裏切って、そのせいで断罪されるのを見届けろっていうの?そんなこと、できるわけがない…!)

 そんなことになればミカエル王太子殿下は――どうなってしまうのか。

 幾度も繰り返したループの記憶が、脳裏に焼きついている。

 処刑台からの風景、血の匂い、飛び交う群衆の怒号。
 その中で、民兵によって城に残っていた人たちは次々に処刑されていった。

(そう…私の前にも誰かがいた…)

 四回目(ぜんかい)のループのとき、自分より先に拘束され、引きずられていった一人の背中。
 その横顔は血と煤に汚れていて、よく覚えていない。最後まで城を守り、城に残っていた人たちを何とか逃がそうとしていた、名もなき衛兵の一人だった。

 後ろ手を縛られたその人は、叫ぶでも喚くでもなく――淡々と自体を受け入れていた。

 最後にアリアの耳に届いたのは、喧騒と怒号に掻き消されてしまいそうな、かすかな声。

(あのとき何て言っていたんだろう……)

 今となっては分からない。
 けれど、最後まで誰かのために必死に生きていた人がいた。少なくとも、あんなかたちで命を落としていい人なんていなかったはず。


 明日、審問会。
 そこはユーリをはじめとした、復権を目指すルガード派が完璧に整えた舞台。

 アリアは、鏡台に置いた銀の髪飾りにそっと触れる。


「同じ悲劇を繰り返させない――絶対に」


 その静かな決意を胸に、アリアは一人夜明けを待った。


< 152 / 167 >

この作品をシェア

pagetop