ループするメイドは破滅ルートを回避したい!はずが、なぜか宰相様の溺愛ルートに入ってしまいました!?
「詳細な身元を調べてくれ。できれば王宮に入った経緯や過去の所属履歴も」

「……は?」

 まさか『ただのメイド』の経歴を調べろと言い出すとは思わず、ライナスは珍しく当惑した。

 だが目を向ければ、さっきまで書類に目を落としていたセドリックの瞳はずっと窓の外に向けられている。
 視線の先にいるのは、ティーセットを片づけ終えてメイド仲間と談笑するアリアの姿。

 一切の無駄を嫌うこの男が、仕事の手を止めてこうしていること自体が、稀有なことだった。

「毒針を見抜いたメイドか……面白い」

 静かに笑みを浮かべながらこぼれた一言に、ライナスがぴくりと眉を上げる。

 長年、彼の秘書を務めてきた者にだけ分かる。

 セドリック・グレイヴナーの『面白い』は、決して軽い興味ではない。
 彼はいつも理詰めで動く主義だ。この裏には少なくとも十数項目にわたる観察と分析、仮説構築がセットで存在している。

 それはつまり、すでに彼の思考の俎上(そじょう)に載ったということ。


 そしてその対象は――

 まだ何も知らずに、陽光の下で笑っている一人のメイドだった。



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