ループするメイドは破滅ルートを回避したい!はずが、なぜか宰相様の溺愛ルートに入ってしまいました!?
 王宮で働くメイドにとって、宰相という肩書は陛下や王太子殿下に並ぶほどの雲の上の存在だ。ふだんの業務で言葉を交わすこともないし、話しかけられるなんてそれはもう何かの間違いレベルである。

(もしかして廊下で花瓶をぶつけたのがバレた?いやあれは三回目のループのときだし!じゃあなんで…!?)

 そんなアリアの焦りなど知る由もなく、端正な顔立ちの下の蒼玉色の瞳が彼女を射抜いている。そこにはわずかな揺れもない。

「君に、少し聞きたいことがある」

「……は、はい……!?」

 カツカツと靴の踵を鳴らしながら距離を詰められて、アリアの返事は見事に裏返った。

「クラヴィス嬢宛ての贈り物に毒針が仕込まれていた件、君が第一発見者だと聞いた。そのときの状況を詳しく教えてもらいたい」

 予想もしていなかった単語が飛び出して、アリアの背筋に冷たい汗が伝う。

 空気の張り詰め方が、これまで出会った誰とも違う。
 歩き方ひとつ目線ひとつに、支配する者の品格が滲んでいる。

(ど…どうしよう……!?)

 アリアはごくりと喉を鳴らしながら『ループの秘密』を隠しつつ、どう乗り切るべきか頭を高速回転させ始める。

「えっと、それはほんの偶然でして……念のために中を確認しようと思っただけで……」

 視線を泳がせながらも、アリアはなんとか答える。
 だがその言葉を聞いたセドリックは微動だにせずさらりと続けた。

「確認しようと思った理由は?」

「え……ええと……」

 追い詰められた小動物のような目で、アリアは助けを求めるように周囲をちらりと見た。だがこの回廊にはセドリックと彼女の他に人影はない。

「私、身の回りの品に関しては、なるべく目を通すようにしていて……その、丁寧な確認というか……」

「毒針の仕込みはかなり手が込んでいたと聞いている。ぱっと見ただけでは判別がつかないほどに。君はどうやってそれに気づいた?」

 質問が細かい。そして的確すぎる。
 まるで裁判官の尋問のような圧に、アリアの背中を汗がひとすじ伝った。

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