ループするメイドは破滅ルートを回避したい!はずが、なぜか宰相様の溺愛ルートに入ってしまいました!?
「よくも毎日飽きずに聞いていられますね」

 アリアが退室したあと、ライナスがため息まじりにこぼした。報告と言えば聞こえはいいが、あれは八割方ただのポエムだ。

「ライナス」

「なんでしょうか?」

「相手の警戒心を解く一番の方法とはなんだと思う?」

「……は?」

 あまりにも唐突すぎる質問に、ライナスは一瞬なんの冗談かと思った。
 だが、セドリックは至って真面目な表情で書類を整えている。

「相手の懐に入り、信用や安心を与えたいときは?」

 ライナスはしばらく沈黙してから困惑の混じったため息をついた。

「贈り物をする、とかでしょうか?まずは相手の好みを把握して…」

「違うな」

「では何だと?」

「共感だよ」

「……共感?」

「『私も君と同じように思う』と共感されることが、人の心に一番届く。特にあのメイドのようなタイプの場合、自分の価値観を否定しない相手には驚くほど簡単に心を開く」

 セドリックの表情は愉快そうに笑っていた。まるで罠にかかった獲物を愛でるように。

「彼女自身がこの日次報告を『楽しみだ』と思ううちは、こちらの勝ちだ」

 ライナスは思わず天を仰いだ。

「まったく……呆れますね」 

 セドリックが彼女の推し語りに付き合うのは、警戒心を解くための鍵というわけだ。そのために最高級の茶葉を用意し、高級スイーツまで用意して。
 ライナスは小さくため息をついて、呟いた。

(……まぁ、閣下なりに本気なんでしょうけれど)

 問題は、その本気度と方法論がやや常人とはズレていることだと思う。

「……お好きですね、本当に」

「何が?」

「あの子のことですよ」

 するとセドリックは驚いたように目を見開いた。一瞬だけ覗かせた、宰相ではないセドリック・グレイヴナーという一個人としての顔。

「別にそういうわけじゃない、ただの興味だ」

(……本当に素直じゃない)

 そう思いながらも、ライナスは肩を竦めつつ執務室を静かに後にした。


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