ループするメイドは破滅ルートを回避したい!はずが、なぜか宰相様の溺愛ルートに入ってしまいました!?
(いろんなことがいっぺんに押し寄せてきて、頭が追いつかないんですけど…)

「君がサロンであの男に目を付けていたのは分かっていた。声をかけてさりげなく名を尋ね、流れを乱さぬように立ち回っていただろう?」

 アリアはぎくりと肩を震わせる。
 まさか、あの一連の動きすら見られていたなんて。

「聡明だと思ったよ。あの場にいながら誰より早く気づき動いていた」

(違う、私は盗みに気づいたんじゃなくて……)

 でも正直に言うわけにもいかず、アリアはただ顔を伏せる。

「……と思えば、危険を省みずに自分から飛び込んでいくとはな」

 責めるでも呆れるでもなく、どこか困った部下に向けるような柔らかさを含んだ声。その心地いい声色(こわいろ)に、アリアの胸がにわかに震える。

「まったくお転婆なメイドだな、君は」

「っ……!」

 アリアの頬がじんわりと熱を帯びる。

「……う、バカにしてますよね…?」

 結局はフラグでもなんでもなくて、自分の勇み足だった。
 エレナを守るつもりが見当違いの予想をしていたあげく、バルコニーから突き落とされそうになるなんて。穴があったら埋もれたいくらいの大失態だ。

「バカにはしていない。むしろ…」

「むしろ…?」

 問い返した瞬間、セドリックはふいと目を逸らした。

「……なんでもない」

 優しさとも、甘さとも違う。
 不思議な空気が辺りを包んでいるような気がして、アリアの鼓動が少しだけ早くなる。

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