ループするメイドは破滅ルートを回避したい!はずが、なぜか宰相様の溺愛ルートに入ってしまいました!?
 * * *


 執務室の扉が静かに閉まる音が背後に消えていく。

 アリアはいつもの定位置である一人掛けの椅子に座ると、筆頭秘書官のライナス・フォルトによって手際よくお茶と菓子を準備される。

 今日は香り高い紅茶と淡いピンクの苺タルト。
 いつも通りの完璧なセッティングに、アリアもさっきまでの緊張が和らいでいく。

 アリアはティーカップを手に取ると、目を輝かせながら口を開く。

「今朝は、エレナ様の自室に殿下が直々に訪ねられたそうなんです!」

「そうか」

「それでですね、午後はエレナ様からのお誘いで中庭でお茶を!」

「……ふむ」

「エレナ様が殿下のカップに砂糖を一つ入れてあげて、殿下がそれをふっと微笑んで受け取って……あれは完全に絆が深まってるの合図といいますか、わたし的にはもう感無量で……!」

 アリアの声は自然と熱を帯びる。
  いつものように心から嬉しそうに推しカプ報告をする時間、のはずだったのだが。

「言っている意味が分からない」

 静かに返された一言に、アリアの声がぴたりと止まった。

「えっ……?」

「絆が深まっていると判断したのは何ゆえに?君の世界基準か?」

 皮肉めいた声音とともに、セドリックは視線を上げることなくさらりと書類を捲った。

「……え、ええと?こう……距離感ですかね…?心の距離がっ!」

 アリアは焦るように身振り手振りをまじえて説明する。

「心の距離は客観的に測れないと思うが」

「でも!あの流れは誰がどう見ても……」

「誰がどう見てもではなく『君がそう見たい』だけでは?」

 ばっさりと切られた。

 淡々と告げられたその言葉は、いつものような冗談めかしたからかいではなく、本気で淡白な反応だった。パサリと書類がめくられていく音だけがやけに耳に残る。

(え……なに、この感じ……)

 いつもなら「なるほど興味深い観察だな」なんて相槌を打ってくれるのに。
 
 アリアの表情が不安に沈む。
 それを、傍らに控えていたライナスが見かねたように小さく息をついた。

「……閣下。少々、言葉が足りていないのでは?」

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