ループするメイドは破滅ルートを回避したい!はずが、なぜか宰相様の溺愛ルートに入ってしまいました!?
17.そのギャップはずるいです
「わあ……!」

 馬車の扉が開いた瞬間、外から賑やかな空気が流れ込んできた。
 ここは王都・南市街――庶民たちが行き交い、商人たちが声を張り上げる活気あふれる一角だ。

 焼き菓子の香ばしい匂い。屋台の威勢のいい呼び込み。
 まるでお祭りみたいな明るい雰囲気に、アリアは思わず声を漏らしていた。

 久しぶりの王都の街並みに胸が高鳴る。
 きょろきょろと視線を走らせていた、そのとき。

「ほら」

 目の前に黒くて重厚な革の鞄が突き出された。
 見るからに中身がぎっしり詰まっていて重たそうな、それ。

「早く持て」

「え、ちょ、なんでですか!?」

「君は荷物持ち要員として連れてきた。これくらい想定内だろう?」

 セドリックは、至極当然だと言わんばかりの顔でアリアを見下ろした。

「本当に荷物持ちなんですか!?もっとこう、視察のお供というか補佐官的な何かだと思ってたんですけど」

「君はメイドだろう。そんな働きは期待していない」

「ぐぅ……!確かにそうですけども!」

 渋々ながら両手で鞄を受け取るとずしりと重くて、思わず体がふらつく。

「お、重っ……!?なに入ってるんですかこれ!?」

「視察に必要な記録書類と文具類と昼食の手配書。あとは予備の資料と地図と、天候変化に備えて外套を」

「フルセットじゃないですかぁ!!」

 悲鳴を上げるアリアをよそに、セドリックはもう別方向へ向き直っていた。次々と各方面に指示を飛ばし、視察の段取りの最終確認に余念がない。

(もう、完全に雑用じゃないですか……!)

 アリアが内心で抗議している間にも、セドリックはきびきびと歩き始める。

「何をしている、置いていくぞ」

「は、はい!いま行きます!」

 慌てて重たい鞄を抱え直し、駆け足で後を追う。

(……こういうときの閣下って、ちょっと楽しそうに見えるのは気のせい?)

 それが揶揄いなのかそうじゃないのかは、分からないけれど。

 まるで遠足で先生に引率される生徒みたいだな、なんて思いながら鞄のベルトをぎゅっと握り直す。
 そして眩しいくらいににぎやかな南市街へと、真っ直ぐに伸びるセドリックの背中を追いかけた。


< 79 / 167 >

この作品をシェア

pagetop