ループするメイドは破滅ルートを回避したい!はずが、なぜか宰相様の溺愛ルートに入ってしまいました!?
 少年に手を振って別れたあと、飴細工を手にセドリックの元へ駆け寄る。

「宰相閣下!」

「……なんだ?」

 数字と報告書に囲まれた中、セドリックがわずかに視線を向けた。

「これ、さっき閣下が助けてあげた男の子からのお礼です。飴細工屋さんの子だそうです」

 胸を張って差し出すと、セドリックは一度それを見つめてからすぐに手元の書類に目を戻した。

「君にやる」

「……え?そんなダメですよ!ちゃんと『宰相様に渡してくれ』って頼まれたんですから!」

「俺はいま手が離せない」

「ダメです!責任を持って渡すって約束したんです!」

 完全に譲る気がないアリアの気迫に、セドリックは根負けしたように小さく息を吐く。

「……仕方ないな」

 観念したように淡々と飴細工を受け取る。
 そして、何のためらいもなく包装紙を破ると、そのままぱくりと口元に運んだ。

「……え、食べるんですか!?」

 アリアが目を丸くするのをよそに、セドリックは変わらず資料に目を通し商人たちの問いに淡々と答えている。その口元には、さっきの飴がちょこんとのせられたままで。

(えっ、ちょ、ちょっと待って……!)

 あまりにもギャップがすごすぎた。
 王国の宰相が無表情で飴を舐めながら「取引報告書の年度比較を明日までに出せ」と指示を出している。

 (おかしい……めちゃくちゃ仕事できるのに……口元だけすっごくゆるい…!!)

 堪えようとすればするほど、笑いの波が込み上げてきて。

「……ぷふっ」

 とうとう吹き出してしまったアリアに、セドリックがちらりと一瞥する。

「笑うな」

「む、無理ですって……!」

 その口調はいつもの冷静なトーンなのに、口元には可愛い猫の形をした飴細工。真面目な顔とのギャップにますます追い打ちをかけられる。

 アリアは必死で口元を押さえながら、それでも笑いをこらえきれなかった。


(もう、ほんと……ずるいでしょこの人……!)

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