ここが乙女ゲームの世界でも好きにさせてもらいます!
「……エレノア。譲ってあげなさい」
そのドレスがどうやってエレノアの手元に来たのか、まるで知らないくせに簡単にそんなことを言う父親。
さっきからこのやり取りを止めることなく、一切口を開かない母親。
毎度のことだが、エレノアはこの状況に心底うんざりしていた。
どうでもいいものならレイラに譲ってしまうのだが、これだけは――大好きだった祖母にもらったこのドレスだけは、絶対に譲りたくない。
エレノアは間違いなくそう思った――のに。
「……わかりました。ドレスはレイラに譲ります」
口からはなぜか、心とは正反対の言葉がこぼれ出ていた。
「ふふ。お姉様はお優しくて助かるわ。ジーナ、あとで私の部屋へ運んでいて頂戴ね」
「…………かしこまりました」
エレノアの隣に控えていたジーナからは、怒りとも失望とも取れる気配が感じられた。エレノアがドレスをとても大切にしていたことは、ジーナが一番よく知っているからだ。
「エレノアお嬢様、どうしてあの大事なドレスをレイラ様に譲ってしまわれたのですか」
案の定、ドレスをレイラの元に運び終わったジーナから、エレノアは憤りを通り越した、悲しげな目を向けられてしまった。
「……私も、どうしてかよくわからないの。あれだけは取られたくないと思っていたのに……」
実はレイラに関して、こういうことがこれまでも何度かあった。自分の意志とは違う言葉が、なぜか勝手に口から出てしまうのだ。
「そういえばエレノアお嬢様が大層気に入って買われたネックレスをあの人にぶんどられた時も、たしかそうおっしゃっていましたね。譲りたくなかったのに、と」
「ちょっと、ぶんどられた、ってジーナ……誰が聞いているか……」
「構いません。本当のことですから」
鼻息荒く、我が事のように憤ってくれるジーナをありがたく、嬉しく思いながらも、エレノアは一応廊下を覗いておく。
「……きっとどんな形であれ、姉妹の愛や情が私の中にあるのかもしれないわね――」