断罪令嬢、証拠品がアレでしたわ!
セレスティア王立学院——。
貴族の子弟が集う名門にして、未来の政治・社交界を担う若者たちの学び舎。
その中でもひときわ注目を集めるのが、侯爵家の嫡男、レオンハルト・グレイ様。
氷のレオン様——そう呼ばれるほど、誰も寄せつけない。
容姿端麗、頭脳明晰、剣術も魔導も学年首位。
そして、女性には一切興味を示さない。
……はず、だった。
「そんな方が、お姉さまをもてあそぶだなんて……信じられませんわ!」
わたくしは拳を握りしめ、木陰に身を潜めた。
昼下がりの中庭。
噴水のそばで静かに本を読むレオン様。
陽光を受けて艶めく黒髪、長い睫毛、琥珀色の瞳、整った横顔。
(……ああ、確かに、すっとこどっこいのくせに顔はよろしいのですわね)
心の中で毒づきながらも、視線は彼に釘付けだった。
毎日、こうして中庭で本を読んでいる。
人との会話はほとんどなく、近づく者もいない。
まさに“氷のレオン様”。けれど、その静けさの奥に、何か隠している気がしてならなかった。
(ふふっ……ええ、沈黙も今日までですわ)
わたくしはスカートの裾をきゅっと握りしめる。
——作戦その一。水難事件でございます。
わたくしは意を決した。
「いきますわよ、リリィ!」
「お嬢さま、本当にやるんですか……?」
「当然ですわ!」
ぱしゃんっ。
用意しておいた小さなバケツの水を、勢いよく頭からかぶる。
「つ、冷たいですわーーっ!! う、上からなぜか水風船がっ!!」
よろめきながら、びしょ濡れのままレオン様の前に踊り出た。
「びしょびしょ……ですわあっ!!!」
「………………………………」
レオン様は、ページをめくる手すら止めなかった。
その漆黒の睫毛が、ほんの一瞬だけこちらを見ただけで、すぐに本へと戻る。
完・全・無・視。
(う、うそでしょ!? 目の前にずぶ濡れのレディがいるのに、ハンカチどころか……)
(声すらかけてくれないなんて……!)
あの“氷のレオン様”の噂は、やはり真実だったのだ。
それでも、せめて彼の注意を引こうと、わたくしは「ガタガタ」と声に出し、震えながらレオン様の周囲をぐるりと一周してみせた。
びしゃびしゃと靴が鳴るたびに、周囲の学生たちがざわつく。
だがレオン様は、まるで存在しないものでも見るかのように、一切視線を上げなかった。
(……もう無理ですわ。これ以上は心が凍りますわ……)
耐え切れなくなったわたくしは、そっと踵を返し、校舎の影に隠れて待機していたリリィのもとへ戻った。
リリィが駆け寄り、タオルでわたくしの肩を拭きながら、心底呆れたように言った。
「……お嬢さま、さすがにこれは自作自演が過ぎますね」
「だって、これも全てお姉さまのためですもの!」
びしょ濡れのまま拳を握りしめるわたくしに、リリィは小さくため息をついた。