魔王様!まさかアイツは吸血鬼?【恋人は魔王様‐X'mas Ver.‐】
31.神様の言い訳
記憶が戻ってから見るマンションの景色は、今朝までとはまるで違って見えた。
いろんなところに、キョウとの思い出が滲んでいる。

それでも。
黒いソファにジャックが寝ていないことは、私を淋しくさせた。
その隣の壁に掛けてあるグラン・プラスのクリスマスの夜景だけが、私の心を和ませてくれた。

インターネットで、キョウやジャックが歌っていた「荒野の果てに」を探す。
本当に有名なクリスマス・キャロルで、いくらでも出てきた。

ジャックの葬儀さえ出来ない私からの、レクイエムになればいいと、何度も何度も聞いて、何度も何度も口ずさむ。

それにしても、キョウって歌が上手かったのね。
知らなかったわ……。

知らないことだらけ。
分からないことだらけ。

今、私に判っていることと言えば、綾香の身にもう危害は及ばないこと。
ジャックが消えたこと。
キョウが社長だってこと。

そして。
もうすぐ、クリスマスだってこと、くらいだ。

そういえば、あの雪山で誰に刺されたのかしら?
それすらも、分からない。

「知りたい?」

頭の中に、声が響く。

「ええ、知りたいわ」

疲れ果てていた私は、意識が引きずられるままにそう、呟いていた。
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