「庭の千草」狂詩曲
詩月は気心を加え、手加減して演奏したとして、郁子が納得するとは思えなかった。

実力差がどんなにあっても、郁子がそれに気づいて傷ついたとしても、郁子の決意を手加減した演奏で濁したくなかった。

詩月は自分の奏でる「雨だれ」で、郁子の新たな道を祝福しようと思った。

例え、冷淡、無情と言われても。

郁子には、詩月の演奏する全身を包みこむ雨音が心地よかった。

郁子は「雨だれ」を演奏し終えて、サッと立ち上がった。

「本気で演奏してくれて、手加減しないで演奏してくれて、ありがとう」

詩月は何も言わずに、自らが楽譜を興した曲「ヴァイオリンロマンス」のピアノバージョンを演奏し始めた。

聖諒学園に伝わるヴァイオリン伝説。

正門の女神像と裏門の男神像、4つのミッションを満たすと、2つの像が奏でるという曲「ヴァイオリンロマンス」ーーを。

詩月は郁子にミューズ(ギリシャ神話で学問、芸術、科学を司る女神)の祝福があることを祈りながら。
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