「庭の千草」狂詩曲(ラプソディー)
「ダフィット教授の十八番(おはこ)は『夏の名残りの薔薇』だった。クレアのレッスンの時によく弾いていた曲では?」

ユリウスがクレアに「そうだろう」といいたげに同意を求めた。

「ええ。聞き惚れてしまって、私も先生みたいに弾きたいと、いつも思ったわ」

「妬けるな~。教授の選曲リストは難曲ばかりだったが、1番の難曲が『夏の名残りの薔薇』だった。彼は本気で君をガダニーニを弾くヴァイオリニストに育てたかったんだ」

「無念だっただろうな」

詩月はクレアと宗月、ユリウスの会話を黙って聞いていた。

気難しく険しい顔をした男性が、煙草をふかしている様子が思い浮かんだ。

「先生はヴァイオリン演奏する時は、感情豊かで優しい顔をしていたわ。『夏の名残りの薔薇』を演奏する時は特に」

詩月はダフィットが「夏の名残りの薔薇」を演奏している姿を想像しながら、彼の演奏を聴いてみたかったと思った。
< 371 / 380 >

この作品をシェア

pagetop