嘘つきな騎士と破られた託宣 -龍の託宣6-
 天井には星空が刻まれており、壁にはぐるりと人の営みが描かれていた。それはひとつの物語のようで、カイは入り口からその壁画を辿るように見回した。

 水害、戦火、飢え、疫病。そして祈りを捧げる、目隠しをしたひとりの女性――

「孤独な龍と星読みの王女……」

 壁画に刻まれた絵物語は、この国で知られる童話を思わせる。盲目の王女が辿る、国守りのストーリーだ。王女自身が犠牲となって、青龍に救いを求めるという子供向けの話だった。

 壁画の王女はやがて龍の元へとたどり着く。花嫁となった星読みの王女は、青龍とともに国を守り続けるという結末を迎えるはずだ。

 最後の壁には、とぐろを巻いた龍の手の内で、静かに眠る王女が描かれていた。それは崇高で美しく、神の世界を切り取ったかのごとく、胸を震わす荘厳な眺めだった。

 二輪車を降り、言葉を失ったままのカイは、もう一度広間を見渡した。

 その間にも、先ほどの聖女の力が壁を走り、夜空を()す天井にまで広がってゆく。刻まれた文様をなぞりながら、迷路のように拡散していく(さま)を見上げていると、やがて光はドームの中心へと集約していった。

 ちょうど星空の真ん中で、最後に光はひと(またた)きした。かと思うと、緑の力が瞬間()ぜる。

 目のくらむような輝きに、カイは腕で顔を覆った。流星のごとく降り注ぐ緑が、全身を床へと押しつぶす。ままならない呼吸に苦悶(くもん)の汗がにじみ、圧倒的なリーゼロッテの力を受けて、カイはなす(すべ)もなく片膝をついた。

「これはまた見事じゃのう」

 のんきな声とともに、ふっと圧が軽くなる。崩れかけた体を起こし、呆然とおばばを見やった。神聖な白の輝きが、ふたりを守るように結界を作っている。

「この光景は幾度か見たが、今日ほどのものは初めてじゃな。見よ、シイラの魂があんなにも歓喜しておる」
「おばば様……これは一体……」
「元はと言えば、ここはラウエンシュタイン国の王城があった場所じゃ。星読みの力に反応するのも道理じゃろうて」
「ラウエンシュタイン国?」
「なんじゃ、知らぬのかえ? ブラオエルシュタインが国を成す以前、ラウエンシュタイン王家がこの地を治めておった。ここティビシスはラウエンシュタイン最後の王女と、犠牲になった(たみ)たちの魂を鎮めるために建てられた神殿なのじゃ」

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