嘘つきな騎士と破られた託宣 -龍の託宣6-
「行くぞ」

 促されて、戸惑いつつもリーゼロッテは歩き出す。城へと向かっていくふたりを、ジークハルトはひらひらと手を振り見送った。

『ありがとう、リーゼロッテ』

 届かない距離でそう告げる。きっと考えもよらないのだろう。その存在が、どれほどジークヴァルトを救っているのかを。そしてまたジークハルト自身をも。

 肉体を失って久しいこの身だが、未だひとの心が保てているのは、間違いなくフーゲンベルクの託宣者たちと繋がってきたからだ。

 ジークハルトはリーゼロッテが好きだ。ジークヴァルトと同じくらい、狂おしいほど愛しく大切にしたいと思っている。
 守護する者たちから伝わってくる想いそのままに、対となった託宣の相手にジークハルトも等しく恋をしてきた。同じ熱量で(つがい)を求め、ひとつになるよろこびを噛みしめる。

 それでもこの感情は錯覚だ。悠久の時の中で消えかけていた“自分”を、ジークハルトは思いがけずに取り戻した。

 これまでずっと、リーゼロッテを彼女に重ねていた。だがそれは似て非なるものだとようやく気づく。ティビシス神殿は懐かしいにおいに満ちていて、ジークハルトの記憶はあの時にひとっ飛びで巻き戻った。

『ありがとう……』

 もう一度つぶやいて、遥か過去に思いを寄せる。守護者となった日の誓いは、今も確かにこの胸に息づいていた。リーゼロッテがいなかったら、再びあの地に戻ることもなかっただろう。

 雪舞う天を仰ぎ、(まぶた)を閉じる。

『姉上……』

 ずいぶんと前に溶けてしまった彼女の気配は、限りなくうすく、それでもまだこの世界を包みこんでいた。

< 108 / 302 >

この作品をシェア

pagetop