嘘つきな騎士と破られた託宣 -龍の託宣6-
     ◇
 堀の水はとても透き通っていて、水底までくっきり見えた。光に揺らめく(みどり)を覗き込んでいると、うっかり流れに吸い込まれてしまいそうだ。
 渡る橋は歩くたびに小さく(きし)む。少し怖くなって、リーゼロッテはジークヴァルトに身を寄せた。そこを抱き上げられかけて、今度は慌てて距離を取る。

「離れるな。橋から落ちたらどうする」
「落ちたりなどいたしません。自分の足で歩かせてくださいませ」

 言い終わる前に手を引かれ、逃げ場なく腰をホールドされる。ジークヴァルトの過保護ぶりには、どうやらつける薬はないようだ。夜会に出る(ごと)(すき)のないエスコートに、リーゼロッテは諦めの境地で身を預けた。

 目の前に建つ城はリーゼロッテの生家、ラウエンシュタイン公爵家だ。ティビシス神殿からの帰路、遠回りしてふたりだけで立ち寄ることになった。あそこで過ごした記憶はないが、ダーミッシュ家に養子に入る以前はこの城で暮らしていたらしい。

 対岸まで渡り切ると、見計らったかのように再び跳ね橋が上がり始めた。同時にそびえ立つ鉄門が、無人のままゆっくりと開かれていく。

(歯車が回るような音がするから、どこかで操作してるのかしら……)

 跳ね橋の鎖が軋む音と門が開く音が重なって、会話をしても聞き取れなさそうだ。門が開ききるまでその様子を、ジークヴァルトとしばらく黙って見上げていた。

 鉄の扉が先に動きを止め、ジークヴァルトに促されて歩き出す。振り返ると、だいぶ切り立った跳ね橋の向こうから、あぐらをかいたジークハルトが小さく手を振っていた。

 門をくぐり城の敷地内へと入る。美しく整えられた庭には、やはり誰もいる様子はなかった。石畳に導かれてさらに進むと、背にした鉄門がひとりでに閉まり始める。やがて扉は完全に閉じ、辺りに静寂が訪れた。

(跳ね橋も上がり切ったのかしら)

 歯車の回る音はもうしない。水のせせらぎも耳には届かず、城壁の厚さが伺えた。かわりに小鳥たちのさえずりが、植えられた木々のあちこちから聞こえてくる。
 薄く雪化粧を施したこの庭は、本当にひとっ子ひとり見当たらない。手入れのいき届いた庭園を見回して、リーゼロッテはぽつりと呟いた。

< 109 / 302 >

この作品をシェア

pagetop